禁じられた放課後
キミへの梯子
あなたを信じている。
心の底からそう思っている。
でも、もしかしたらもっと奥深い所で、私は永久にあなたを疑って生きていくのかもしれない。
一度感じた陰の気持ちは、消え去ることができるほど軽くはない。
どれだけ強く愛されたとしても、肝心なことは忘れられない不器用なもの。
多分この先、あなたを 100%信じられる日は来ないんじゃないかと思う。
それは私がどうにかできることではなくて、女として生まれた定みたいなものだと思うの。
申込書にサインをする直哉を見つめながら、美咲は溜め息ともとれるような安堵の息を漏らした。
今は直哉を信じるのが妻である自分の役目。
まるで気持ちを無理強いするようなその想いに迷いを感じながらも、美咲は自分の隣に並んで書かれた直哉の名前を確認して微笑むのだった。
「上映まではまだずいぶん時間があるわ。少し表の通りを歩きましょ」
柔らかい表情の中で不安を感じさせる瞳。
少し下がったその目尻を、直哉は親指でそっと拭った。
気持ちを見すかされるような思いで動揺し、美咲は慌てて席を立つ。
口元が少し震え、カバンを持つ手も落ち着かない。
安心と不安が交互に押し寄せる。
どうすれば自分の中から全ての不安が消えるのか。
向かいの直哉が席を立ち、美咲の背に手を掛け出口へと促した。
この手の温もりは果たして自分一人のものなのだろうか。
そんな意味のない想像も無意識の中で出て来てしまう。
もう自分では、この気持ちをどうすることもできなかった。