禁じられた放課後
街灯の灯り始めた街並に、止められない自分の気持ちを嫌と言うほど感じながら視線を流す。
深く刻まれようとする想いを無視しようとすればするほどに、行動は身勝手に働いてしまうのだ。
直哉は考えていた。
自分は涼香に何を求めているのか。
少し心配になって様子を見に来ただけとは言え、美咲をおいて涼香の元へ来たことには間違いない。
目の前に架かる梯子は、一歩進むことなど容易くできてしまう。
涼香に一つ惹かれるたびに、一段ずつ登ってしまった禁じられた梯子だ。
しかし登ることに比べて降りることは何倍も難しい。
ひとつ叶えばまたひとつと何かを求めてしまう。
それを繰り返すたびに引き返せない梯子を登り、直哉はまたそうやって自分を追い詰めてきたのだ。
暗く沈む校舎に何かを想う。
バスを降りると直哉は、すぐ目の前に立つ鞘野に気がついた。
「鞘野先生、今日は日直でしたか?」
「あら、吉原先生。どうなさいました?」
直哉は視線を地面で遊ばせ、手元の時計を何気に見下ろした。
「いや……今日は流星群が見える日なので、星を見る生徒たちに日直の先生が付き添っているはずだとは思ったのですが、一応様子を見に……」
真剣な表情の直哉をしばらく見つめた後、鞘野は校舎を振り返った。
「いえ、今日は活動しないようですよ。生徒の姿はありませんでしたから」
薄く笑みを浮かべて門を閉める準備をする。
「すみません、一応活動場所を教えてもらえますか?」
鞘野は手を止め直哉の様子を伺う。
夜風はまだ生温い。
静かな校舎を前に、二人は向かい合わせてただ時計の秒針が動く音に耳を澄ませていた。
「わかりました。こちらですよ」