禁じられた放課後
職員室で飲むコーヒーがいつもより苦く感じるようになったのは、隣でふざけていた山根が、今は遠く離れてしまっているせいなのだろうか。
二人掛けのソファに腰をおろした直哉は、他の教師と話している山根を時々視界に入れながら、その苦いコーヒーをくり返し吐き出される大きな息の合間に少しづず口に含んでいく。
もしも相談するとしたら……そんな相手を失ってしまったような、なんとも空虚な感覚が直哉の胸に響いてきていた。
山根が生徒を何よりも大切に思っていることは分かっていた。
以前、他校の生徒と問題になった男子生徒がいた時も、山根がその体を張って最悪の結果を免れたという話も聞いている。
山根は稀に見る熱い教師なのだ。
今年は受験もある三年生を初めて担任したこともあり、しかも女子生徒がほとんどだというそのクラスに、いつも以上の責任を感じていることも確かなはず。
涼香に対して抱いてしまった直哉の感情を、否定されるどころか、消されることになっても仕方ないのだ。
直哉は自分の間違いを戒められているような、そんな山根の態度に声をかけることすらできないまま、自分に与えられたもう一つの出来事に一人深く悩むことになっていた。