禁じられた放課後
蝉の声もまだ清涼感を感じさせる朝一番の授業前だった。
室長である涼香は、苦手となってしまった早川の元にも教科準備のために訪れなければいけないことがある。
あの夜にあったことなど、山根のおかげで特別学校で問題にされるようなことにはならなかったが、涼香には忘れたい記憶としてその心に深く残されることになっていた。
思い出せば様々な想いが溢れて来てしまう。
そんな涼香の気持ちをもしかすれば察してくれているのか、早川もまた、自分の中では複雑な感情があるものの、その態度を表に出そうとはしなかったのだ。
「早川先生、準備物はこれで全部ですか」
視線を合わせることはないが、涼香はその静かな物言いで早川に指示を仰ぐ。
「あぁ、後は私が運ぶから。気をつけて運ぶんだぞ」
そう言って早川が涼香を廊下まで見送った時だった。
通りかかった数人の女子生徒がヒソヒソと耳打ちをするように話しながら、二人を横目に走り去っていったのだ。
その理由を、涼香はその後すぐに知ることとなる。