禁じられた放課後
悲しみの連鎖
テストが終われば夏休みに入る。
午前中で帰宅する生徒たちの声を遠くに聞きながら、直哉は自分の教室で海外研修の冊子を眺めていた。
数日前———
「まさかこのチャンスを無駄にするわけではないだろう。吉原先生、君はぜひ参加すべきだ。来年度の募集で美咲さんの方にもすぐ後を追わせる」
「しかし校長先生、僕にも一応担当教科がありますし」
それを聞くと、校長の筒井は自分の大きなデスクの引き出しから、一枚の紙を取り出した。
「このアメリカ人教師が、秋からは君の変わりに英会話を担当してくれる。英会話なら臨時教師もすぐ見つかるんだよ。だから君は何も心配することはないんだ。近い内に返事を聞かせてくれ」
それは突然のことだった。
今年の海外研修のメンバーに、ひとつ空きができたというのだ。
そしてその枠を、筒井が伝手を辿って獲得してきたらしい。
直哉にとって願ってもいないチャンスなことは間違いなかった。
来年希望したところで、確実に行けると決まっているような簡単なものではない。
直哉には、断る理由などありえない話だったのだ。
「それで僕はいつまでここに……」
複雑な気持ちの中で、直哉は静かに問いかけた。
頭には、もう整理の付けようのない様々なことが入り乱れている。
「君さえ承諾すればすぐにでも準備はできている。君には部活の顧問もないんだし、夏休みをここで過ごす必要もないだろう」
直哉はふと顔をあげた。
「あ、僕には……」
「ん?なんだね」
星を眺める会。
正式に顧問になったわけでもない。
「……いえ、何でもありません。考えておきます」
「うむ。しかしそれほど考える必要もないと思うが。返事は早めにな」