先生の手が触れる時


「………いや」

その晴夏の言葉で沈黙が訪れる

晴夏は何かを言いたそうに目線を下に落としている
私が口を開こうとしたとき、ほんの少し早く晴夏が口を開いた

「……凪。お前…本当に出てくのか?」

私を真っ直ぐ見据える瞳はとても真剣で、私を心配しているのだというのが伝わってくる

「………うん。前の生活に…戻るだけだよ」
「…でも、お前は…そんな生活から一人で抜け出そうとしてたんだろ?」

そう聞かれ、私はうつむきながら首を横にふる

「一人じゃないよ……凜が支えてくれた。それに……」

そこまでいって口を閉ざす
すると続けようとした言葉を察した晴夏が少し微笑む

「………緑川先生か」
「っ!」

その言葉に思わずうつむいていた顔を上げれば、そこには切ない表情をした晴夏がいた
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