先生の手が触れる時

「……人と向き合うのは簡単じゃねぇよ。お前にしたら…初めて向き合おうとした相手が…その前に死んじまったんだ」
「………」
「だがな。あの子はまだ生きてる。生きながら、苦しんでるんだ…わかるか?……あの子の心がもうお前から離れてってるんなら…仕方がねぇよ。でも、そうじゃないんだろ?」

俺はその言葉に顔をあげる

「………あの子の言葉を思い出せ。少しでも手がかりになることを、だ」
「信……」

信はいつもより優しい微笑みを見せ、俺の頭をはたく

「もう一度聞く。あの子を…助けたいか」

俺ははたかれた頭を押さえながら
ゆっくりまぶたを閉じる

そして

目の前の信をまっすぐ見つめた

「あぁ」

それは俺の中にずっとあった弱さが姿を消した瞬間だった

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