先生の手が触れる時

そんな晴夏の後ろ姿を見て
私はゆっくり立ち上がり
ある場所に足を向けた


「………久しぶりだなぁ…」

そこは美術室

ちゃんと、ハッキリさせなきゃ

ゆっくりドアを開ければ懐かしい匂いが鼻をかすめた

「………失礼します」

そう小さく呟いても、返ってくる答えはなくて
それに少し安心を覚える

変わらないキャンバスの数々
絵の具の匂いに混じるコーヒーの香り

「………」

先生の、匂いだ

何ヵ月も離れていたからか胸がぎゅっと締め付けられる

窓からさす光も
机の上に散らばる何枚もの絵も
あのときのままだ
< 283 / 342 >

この作品をシェア

pagetop