先生の手が触れる時
窓から見える月を仰向けのまま見上げ
何故か緑川先生の絵を思い出していた
月に向かって伸ばした手は
父親の力強い手によって床にまた押しつけられた
父は必ず私を求めたあとに
私を見つめてるのか見つめてないのか分からないような目で
宙をあおいで
そして呆然とした声で呟く
「ごめんな……千代子……」
私は、その声をただ呆然と聞いている
何故、父がその名前を、私の母の名前を呟くのか
このときの私は、まだ知らなかった