先生の手が触れる時

窓から見える月を仰向けのまま見上げ
何故か緑川先生の絵を思い出していた

月に向かって伸ばした手は
父親の力強い手によって床にまた押しつけられた

父は必ず私を求めたあとに

私を見つめてるのか見つめてないのか分からないような目で

宙をあおいで

そして呆然とした声で呟く


「ごめんな……千代子……」


私は、その声をただ呆然と聞いている

何故、父がその名前を、私の母の名前を呟くのか
このときの私は、まだ知らなかった

< 34 / 342 >

この作品をシェア

pagetop