【壁ドン企画】傍にいさせて
「沙希!」

玄関から鋭く友人の名前を呼んで遠慮なく入ってくる男。

そう言えば、あいつに合鍵渡してましたからね。

入ってこれるのは当然です。

まさか、鍵をかけ忘れたなんてことはしてませんよね?

ビクっと身体を震わせた友人は僕の場所と身体を入れ替えました。

狭い部屋に姿を現した背の高い男が、座っている僕らを見下ろすとずいぶんな威圧感を感じます。

怯えたように縮こまる友人は僕を楯にする。

ぼ、僕だって怖いんですけど・・・

「沙希、あのね。約束の場所からダッシュするのを見つけた時はすっごい焦ったんだぞ」

男は床に膝をついて、僕たちの目の高さを合わせてかがむ。

友人に頼られてるのに、退いたら男が廃る。

僕に続きを話してみたまえ。

「びっくりさせてごめん」

僕の両肩を掴んで、男のほうに押し出していた友人の手の上から、男が手を重ねる。

「惚気話したら、課長が帰り道だし、どうしても会いたいっていうから」

「あの女の人、上司なの?」

・・・上司に惚気るな。

「あの人、めっちゃ出来るキレッキレのキャリアウーマンなんだ。今日だって走ってった沙希を見て、一瞬で状況を理解して、俺に走って追いかけろって言ってくれたんだぞ」

いい上司だけど、今日友人が泣いて帰ってきたのは、結局お前の配慮がちょっと足りなかったわけですね。

上司を連れて行くって一言断っておけば済む話を、散々な記念日にしたのは君です。

友人を泣かせた代償として、明日しっかり上司に謝るがいい。

友人は大事だが、友人の彼氏は二の次だ。

僕からは何の制裁も下せないので、心の中で罵ってやる。

彼女と僕の付き合いはお前の何倍も長いのです。

友人が悪くなくっても、僕は友人の味方です。

「そいつから手を離して、顔見せて」

「あんまり美人だから、浮気だと思った」

背中を向けているから、友人の顔は見えない。

それでも、背中に彼女の額が当たってるのを感じる。

かろうじて視界に入る男が情けなく眉を下げる。

「ごめん。沙希が心配するようなことは何にもないから」

「サイトウ君に誓って?」
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