草食彼氏が狼になった日
ここにいた誰もが彼のその言葉、仕草に心を奪われていた。
彼の言葉の発端は些細な事で嫉妬したあたしに向けられた言葉。
女子社員から黄色い悲鳴が聞こえ、はっと我に返った。
職場恋愛が禁止なんてルールはないけれど、コロと付き合っていることは誰にも言っていない。
あたしはコロの腕を引っ張って「ちょっと来て!」と
会社の喫煙所の近くにあるテラスに向かった。
「ど、どうしてあんなこと言うのよ?!」
「どうしてって・・・いつも思ってることだよ?」
そう言って微笑む顔が可愛い・・・ってここで負けたら(!?)だめだ!
「それに、どうして、、、」
「ん?なに?」
183センチの身長を低くして耳を寄せる。
その耳を甘噛みしたい、、、なんて思うあたしは本当に重症かもしれない。
触れたいのに、触れられない。
触れてほしいのに、言えない。
だって拒否されると傷付くから、
四捨五入するともう三十路のあたしは恋に臆病だ。
「莉子さん?」
黙ったままのあたしを不思議そうに見る。ずるい、コロだけが余裕でいるなんて。
「ど、どうして!?
初めて髪の毛でも触れてもらえたと思ったら、ここは会社で・・・
あたしだけがその先も求めてて、、、」
―――ドンッ!と鈍い音が響いて、コロの甘い匂いがふわっと鼻の下を通った。
何が起きたのか分からなくてコロを見上げると、妖艶に笑った彼の顔があたしを見下ろしていた。