愛されたガール
大学を卒業して就職した医療機器メーカーで5歳年上のタクミさんと知り合ってからというもの、私の世界はタクミさん中心に回っております。
押しかけ女房ならぬ、押しかけ彼女。
追い出されないのを良いことに、その座につくこと早3年。
社内では寡黙な職人肌、背中で語る男、黙って俺について来い野郎、等の称号を得ているタクミさんとの同居生活、最初の頃はなかなか大変でした。
なにせ、口数が少ないのです。
家に居ても発せられるのは、「ん」とか「それ」とか「あれ」とか。
熟年夫婦もびっくりの抽象的な片言ばかりで、その意を汲み取ろうとすればするほどお喋りになる私。
「じゃあ、今日はお鍋にしますね。鳥鍋ですよ。おもちも入れちゃいますよ」
そう言って冷蔵庫からねぎやら白菜やらを取り出して手早く刻んでいると、タクミさんがペットボトルのジュースを取りに台所にやってきました。
(あ、喜んでる)
横顔を盗み見れば微かに口角が上がっていて、機嫌が良いことが分かりました。
さては夕飯がお鍋ということではしゃいでいるな、おぬし!!
タクミさんは言葉には出さないけれど、顔には結構出ます。