すずめ日記
幸子は「先生……」と、すがるように視線を送り、私は何も言わず、大きくうなずいた。



遂に幸子にバトンが渡った。


芳樹くんと幸子の差は練習の時と、ほぼ同じ。


芳樹くんは第2コーナーを走っている。


幸子が走り出した。
懸命に芳樹くんを追いかける。


1位を走る芳樹くん、必死に走る幸子。


その差はみるみる縮まっていった。


第3コーナー、幸子が芳樹くんに追いついた。


が、幸子は追い抜くのを躊躇っている。


誰にもわからないような、かすかな幸子の迷いに、私は気付いた。


私は、思わず大声で叫んだ。



「抜け、幸子!! なにがなんでも抜け!!」



幸子は抜いた。


大声援を受けて懸命に走る芳樹くんを。


観衆の溜め息の中、幸子は芳樹くんを 一気に抜いた。



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