ピンクな理想、グレーな現実
「もっと可愛い子が良いんじゃなかったの?」


「そうだけど、我慢しとく」



そう言いながらも、嬉しそうに笑って何度もキスをする夫の背中に腕を回す。


ときめきはほしいけれど、適当な返事は腹が立つけれど、結局はやっぱり。

この腕の中が一番みたい。


交際期間も入れれば八年以上一緒で、新鮮さのかけらもない、昔みたいな情熱もない。

生返事も多いし、扱いも適当。
 

新しい恋がしたいと、妄想の中ではいっぱい浮気してる。

イケメン俳優に壁ドンされたい。
サッカー部のキャプテンにあの時告白してたら。
それ以外にも、たくさん。

妄想の中ではたくさんの恋人がいる。


だけど私の現実は、毎日一緒にいたい人はこの人だけなんだ。

体調の悪い時に看病してくれて、大した料理も作れないのに美味しいと誉めてくれる夫だけ。



「仕方ないから、私も我慢しとこうかな」



俺にしとけよ、他の男は見るな。
胸キュンする理想のシチュエーションなんて、なかなか現実には訪れない。

ピンクな理想と比べて、グレーな現実が時々味気なく感じてしまう。


だけど、本当は違うんだ。

グレーで味気なく思える現実は、よく見ればピンクな理想よりも、ずっとずっと綺麗な色なのかもしれない。






        【完】




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