『へるぷ』





「……ふ、っぐ……ううっ…」



いつもみたいに抑え込んでいられなくなって、あたしはその場にうずくまってしまった。


誰もいない通路に、自分の嗚咽とすすりあげる音だけが響く。


コンクリートの地面が冷たい。


そこに涙がぽたぽた雨のように落ちる。


だめだ、はやく家に戻らないと。


こんなところで泣いたらいけない。


バカ、晃汰のばっかやろう。


違う、バカはあたしだ、何も言えないあたしだ。


なんだかんだ言い訳をして、結局怖くて伝えられないままでいるんだ。


それを棚に上げて偉そうに晃汰にアドバイスなんかして、うまくいっている晃汰に嫉妬して、晃汰が愚痴ったりつまずいたりしたときは変に期待なんかして。



……卑怯者すぎる。


こうするしか晃汰のそばにいられる自信がない卑怯なあたし、見てもらえるわけないじゃない。




「――海咲!?」



ふいに後ろでドアが開く音が聞こえた。


そして、晃汰があたしを呼ぶ声が届いた、走り寄ってくる音も。


あたしは慌てて、ぐちゃぐちゃに濡れた顔を袖で拭いた。


乱暴なせいで服がこすれてひりつく。



「おい、海咲、どうしたんだ!?具合悪いのか?」



晃汰があたしの傍らに膝をついて、背中をさすってくれた。


顔を見られないように、あたしは深く下を向く。





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