『へるぷ』
「晃汰、何、してんの……?」
「何って、お前スマホ忘れてったから届けようと思って。
……って、そんなことどうでもいいだろ。
風邪か?熱あんのか?ケーキ食いすぎたか?吐きそうなのか?」
「……ううん、そうじゃない、なんでもないから」
「何もなくて座り込むか?普通」
「だから、なんでもないって……」
「海咲、お前、もしかして泣いてるのか?本当にどうしたんだよ?」
「なんでもないってば!」
こんなにみっともないところ、晃汰には見せたくない。
放っておいてほしくて、あたしは思わず怒鳴ってしまった。
晃汰の手が一瞬だけ震えたけど、すぐにあたしの肩を後ろからつかんだ。
「なんでもなくないだろ、お前が泣くなんて。
……何があったんだよ、今度は俺が聞くから、話してみろよ」
今度は俺が聞くから、話してみろよ。
優しく言われた言葉が、傷まみれの胸にじわりと広がる。
晃汰、ずるい。
たったこれだけで、つかの間だけど幸せな気分になれちゃう……。
……ん?ちょっとまって。
あたし、晃汰のせいで泣いてるんだよね?
晃汰に好きな女の子のことをあれこれ相談されて、嬉しいけど、いつも苦しい思いしてたんだよね。
……なんで幸せな気分にされなきゃなんないのよ!
すっと涙が止まった。
代わりに、腹の底から怒りがわいてきた。
あたしはゆらりと立ち上がった。
晃汰もつられて一緒に立ち、あたしの顔を覗き込んでくる。