『へるぷ』
昼間は残暑が厳しいけど、夜になればぐっと気温が下がるので寒い。
経験するのは2年目で、まだ身体になじまない寒暖差だ。
明日の講義は授業見学なので、風邪をひいてしまうわけにはいかない。
星空を見上げていると、手の中のスマホが震えた。
すぐに『応答』のボタンをタップして出る。
「もしもし」
「あ、すげえ、ノイズゼロで聞こえた」
一拍遅れて、晃汰の明るい声が耳に入った。
また、胸が温かくなって痛む。
隠すのは得意だ。
あたしはベランダの手すりに寄りかかり、星を見ながら続けた。
「電波がいいとやっぱ違うな。海咲(みさき)、どこに居んの?」
「家のベランダだけど」
「あ、俺も同じ。外だと聞きやすくて楽だな。まあ無料だから電波悪いのは当たり前だけ」
「はいはい、ノイズのことは分かったからはやく用件言って」
「えー、海咲、傷心中の男に冷たくねえか?」
「用がないなら切るわよ」
「さーせん、用件話します」
慌てた調子で晃汰が謝ってきた。
電話の向こうできっと頭を下げているのだろう。
ちょっとした間ができたので、あたしはそれを埋めるために声を出す。
「で、水野さんとどんな接触を試みたわけですか?」
「うん……今日はいつもより講義が早く終わったから、早めに部室に行って」
打って変わって、どんより沈んだ晃汰の声が鼓膜を震わせた。
あたしは適当に相槌をはさみながら、晃汰と水野サンの話を聞く。
本当は、こんな話なんか聞きたくない。
でも晃汰と関わりを持つためには、こうするしか他になくて。
あたしは自分の『好き』という気持ちをおしこめ、いつも相談に乗る。
晃汰が別の女の子と恋人になれるように……。