『へるぷ』
「俺のこと、好きって言ってくれてありがとう。
それはすげえ嬉しい。
……でも、返事は待って。
水野さんへの気持ちに整理がついたら、ちゃんと返事するから」
「いいよ、今すぐじゃなくて。ゆっくりでいいよ、待ってるから」
「……やっぱイケメンだな、海咲は」
「晃汰はへなちょこだけどね」
「お前、そこは『晃汰もよ』って褒めてくれるところだろ?」
顔を見合わせ、あたしと晃汰は小さく笑った。
突発的ではあったけど、それでも晃汰に自分の気持ちを伝えることができた。
それだけで胸が軽くなる。
痛みが薄れていく。
待ってるよ、晃汰。
今までも待っていたから、これからも待っていられるよ。
スマホを受け取って、晃汰を家へ追い返した。
階段を駆け下りてマンションから出て、変わらず星がまたたいている夜空を仰ぐ。
ずっと引っかかっていたものがきれいになくなって、すごく晴れ晴れとした気分だ。
この先、あたしが晃汰とどう関わっていくことになるのかは分からない。
でも、本当に大切な友達なら、こんなことで絆は壊れないよね?
伝えるまではすごく怖かったけど、勇気を出してよかった。
だってこれでようやく、この場所から進むことができるようになったから。
中学3年生のときから留まったままでいた場所から。
あたしは家を目指して大股で歩いて行った。
白く光る街灯は、進むべき道を示してくれているようで心強い。
どう転がるか分からない恋に向かって、あたしはずんずん歩いていく。
―END―