『へるぷ』
「水野さんがどうかは分からないけど、女の子だったら直接言ってもらえる方が嬉しいんじゃないの?」
「うわ、やっぱ直かあ」
「でもそれ、晃汰にはきついんじゃない?」
「分かってるなら言うなよ」
「じゃあLINEだね。
まあ今までそういう関わりなかったんなら、ソフトに誘ってみよう」
「文章、どうしよう」
「ちょっと、そんくらい自分で考えなよ」
「ヒントだけ?考えるヒントだけでも恵んでください相原(あいはら)先輩!」
「それ、あんたが言うとお兄ちゃんとしか思えないんだけど」
「じゃあ相原女史?」
「なにそれ、一気に胡散臭くなった」
「ひでえ」
途中で断ったり脱線したりしながらも、結局あたしは最後まで付き合って、文章まで一緒に考えてしまった。
デートプランまで相談されそうになったから、それはOKもらえたらにしろと言ってやめさせた。
通話を終わらせると、もう30分近くしゃべっていたことに気付いた。
晃汰と話していると、時間はあっという間に過ぎてしまう。
それに、けっこう疲れる。
聞きたくもない恋愛相談に付き合わされて、それを悟られないようにいつもの調子を演じて、あいつが嬉しそうになるたびに胸が痛むから。
いっぱい運動した後のように感じる。
部屋に戻ってスマホを充電器につないで、あたしはベッドにあおむけになった。
『ありがとな、海咲。まじで助かった』
最後に言われた晃汰の言葉が、頭の中でぐるぐる渦巻いている。
これが恋愛相談じゃなかったら、素直に受け取れたのに。
力になれて嬉しいような、切ないような、悲しいような、一言では言い表せない気持ちになる。
晃汰に相談された後は、いつも張り裂けそうになる胸を独りで抱えていた。
痛くて痛くて、すぐには動けないくらい苦しかった。
今も息をするのも辛くて、あたしはベッドの上で身体を丸めている。
こうなることは嫌というくらい分かっている。
だけど、辞めることなんてできない。
あたしが晃汰と関われるのは、恋愛相談しかないのだから。