『へるぷ』





でも中3の冬、晃汰があたしと同じ高校を受験すると知った時、自分の胸が高鳴ったのをよく覚えている。


いつまでも一緒にはいられない、そんな当たり前のことにようやく気付けた。


そして、まだ晃汰と3年間一緒に居られるんだと分かって嬉しくなった。


その瞬間、あたしは晃汰が好きなのだと自覚した。


あたしたちが合格した高校は部活動が活発だけど宿題の量が鬼と有名な進学校で、1年生の時点でコースが分かれていた。


文系を選んだあたしに対して、晃汰は理系。


同じクラスにならないことは確定した。


しかも教室のある棟も違ったから、会う機会はめっきり減った。


その代わり入学祝いに携帯を買ってもらえたので、メールや電話をするようになった。


こうやって繋がっていられることに、あたしは喜びを感じた。


サーモンピンクの携帯を開いて、今まで晃汰とやりとりしてきたメールを眺めることも多かった。


その内容は、大半が恋愛相談だった。


相手は同じクラスの子だったり部活の先輩後輩だったり、同じ塾の子だったりと、中学校のときよりも女の子の種類が広がっていた。


最初のメールの内容は決まって『へるぷ』。


その文字を見るたび、好きな女の子について楽しそうに話す晃汰を見るたび、幸せそうな声を聴くたび、添付された写真を見るたび、心臓をぎゅうっと握りしめられて切なくなった。


その子と付き合うことになったと報告されたら、その子が羨ましくて泣いた。


振られたり別れたりしたら、どうして見てもらえないんだろうと思って、やっぱり泣いた。


晃汰の恋愛がどう運んだって関係ない。


晃汰に好きな子ができた時点で、あたしはいずれにせよ苦しいんだ。




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