クールなお医者様のギャップに溶けてます
「あの頃、神野先生の私生活に問題…というか色々あったのは確かなの。だから、ため息とかも本当に気にしてなかったのよ。」
私生活に問題…。
なぜそれを一職員が知ってるのか、と思ったら青木さんは神野先生の親戚に当たるのだと教えてくれた。
「よく考えれば神野先生が私生活を職場に持ち込むなんて考えられないのにね。私も浅はかだったわ。だからあなたの意見は少なからず新鮮で…。ふふ、正直初めは余計な事をしてくれて…って思ってた。ただの研修のくせに、何を言い出すんだ、って。でも、神野先生に言われたの。『新人が分かる事をどうしてベテランが分からないんだ。』って。」
「いや、それは違います。ただ私は自己満足のためだけに先生に当たったんです。考えが甘かったのは事実です。」
ふふ、とまた笑う青木さんの顔はすごく綺麗で思わず見とれてしまう。
「確かにまだあなたは若かったわね。面と向かってドクターに意見なんて、ね。」
やっぱり…。
今でもたまに意見しちゃうけど、反省が活かされてないじゃないか。
気をつけなきゃ。
「ただ、さっきも言ったけど、あなたの行動のおかげで私たちの意識が変わったのもまた事実よ。どうしたら患者さんのためになるだろう、より良くなるだろう、って色々みんなで考え直したの。そんなの初めてだった。みんな先輩から教わった事をそのままやっていただけだったから。」
今では県内随一の内視鏡スタッフを揃えてる、という噂が地域内に広まっているのは皆さんの努力の賜物だったんだ。
「謝る、というよりあなたにはお礼を言いたかった。ありがとう、本山さん。」
「そ、そんな…。こちらこそありがとうございました。」
長年胸につかえていたものがすっと溶けていく。
そして泣きそうになる…。
「あらあら、泣かないの。神野先生にまた怒られちゃうわ。」
「せ、先生に怒られるのは私なので、だ、大丈夫ですよ。」
「そんな事ないと思うけど…ま、これから何かあればいつでも連絡して。神野先生がいじめる〜でもいいから。」
うぅぅ、青木さん、いい人過ぎますぅぅぅ。
泣き笑いの顔で「はいっ!」と答えたら盛大に笑われたけど、今日ここにこれて本当に良かった。