クールなお医者様のギャップに溶けてます
ただ、可愛くなる前に済まさなくてはならない事がある。

業務に入る前に山田さんの病室に寄り、深呼吸をしてドアを開ける。

「山田さーん。おはようございまーす。」

明るくいつも通り挨拶したけど、山田さんは私の顔を見るなりむくっと起き上がって無言でベッドの上に正座した。

こっちへ来いと手招きされるから行くと「すまなかった!」と大きな声で謝られる。

「や、山田さん、ちょっと顔を上げて下さいよっ!」

個室で良かった。
こんな姿、他の患者さんが見たら何事かと驚くだろう。
無理にでも頭を上げさせようとするけど、予想外の力で反発されてしまう。

「孫に代わってわしが詫びをするって決めたんじゃ。本当にすまなかった。」

「いや、あの、お孫さんとの事は私も同罪ですから。」

同罪、という言葉に反応した山田さんはようやく顔を上げてくれる。

その不思議そうにする顔を見る限り、山田さん(孫)が私の事を話さなかったんだと分かった。

これはちゃんと話さなくちゃいけない。
PHSで師長に電話をして少し山田さんと話す時間が欲しいと伝える。

この時ばかりは山田さんのお孫さんとの話しが知れ渡っていて良かったと思った。

ただ、興味のある人も少なからずいるはずだから、たとえ個室であっても安心は出来ない。
山田さんを車椅子に乗せて部屋から出る。

ナースステーションを通り過ぎる時、みんなの視線が気になったけど、それは興味というより同情っていう感じで…。
なかには頑張れ、とエールを送ってくれる人もいたけど、やっぱり気まずい事は気まずい。
なるべくみんなの方は見ないようにしてエレベーターへ進む。
< 84 / 218 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop