LUNA―ルナとガレスの冒険記―
出会いと別れ
ガレス
暗闇に浮かぶ、美しい純白の馬。
少女―ルナ・アーネスは、その肢体に見惚れてしまい動くことができない。
金色に光るその瞳は、こちらを見据え、何かを訴えかけているようにも見える。
白馬の口元が動く。
「―――――」
ルナに何かしゃべりかける。だがどうしても聞き取ることができない。
やがて白馬は白く淡い光の筋を残して去って行った。
またあの夢だ。
「はぁ…。」
硬いベッドの上で、ルナは一つ溜息をついた。
ルナはこの夢が嫌いではない。いや、むしろ、この夢を見ると幸せな気持ちになる。
あの白馬は、いつかきっと、私をこの辛い現実から連れ出してくれるんだわ。そう、王子様の馬に違いない…!私が望んでるから、何度も夢に出てきてしまうのね…。
ふと、窓辺の小さなチェストに目をやる。
父が笑っていた。
チェストの上の写真の中で、ルナの父―ベン・アーネスは今朝もさわやかな笑顔だ。
―ズキン―
胸が痛む。
それと同時に、土の臭いがした。
「お父さん、おはよう。」
ルナは小さく呟いた。
「あら、おはよう。今朝は早いのね。」
コップにミルクを注ぎながら、母親が声をかける。
「お母さん、おはよう。今日は隣町まで行くから。」
「そう、大変ね。お母さんも今日は少し帰りが遅くなりそうだわ。」
「わかった!お互いがんばろ。」
「ええ、そうね。」
ルナは働いている。近所の文具屋だ。今日は久しぶりに隣町まで仕入れに行くのだ。
文具屋の店主は、はじめ15の少女を雇うことをためらった。この国―リューナ国では10代の子供が働きに出ることはめずらしい。
しかし、その理由を知り、店主はルナを雇わざるを得なかった。
店主の予想を裏切り、このおさげ髪で童顔の少女は人一倍働いた。
3年経った今では、一人で仕入れを任される程、ルナは店主の信頼を得ていた。
「フフフーン~。」
隣町の街道を歩きながら、つい鼻歌がもれる。
たとえ仕事であっても、久しぶりの遠出は楽しい。
「ちょっと寄り道して、あそこの雑貨屋にでも寄っちゃおうかな。」
なんて考えていた時だった。
「おい…、聞いたか…?」
「あぁ。」
「隣町のジルさんとこの息子、行方不明だってよ。」
男たちの低い声が、思わずルナの足を止めた。心臓がバクバクと音を立てはじめるのが分かった。
「あぁ、聞いたさ。たしか息子は兵士になったって言ってたよな…?」
「あぁ、そうだ。きっとバケモノに喰われちまったに違いねぇ。ジルさんも気の毒だよな、息子が兵士になったってすげぇ喜んでたのによ。」
「怖えなぁ~。今はまだいいけどよ、アルブにまでヤツらがやって来たら、俺たちもおしまいだぜ…。」
「そうだな…。」
ルナはしばらく動けなかった。
お父さん…。
アルブはこの国の都市の名前だ。
ルナの住む国、リューナ国は小さな星に存在しており、海を挟んでスラーイ国とシュタイラ国の2国があった。
空の中、かすかに見える青い惑星は、地球というらしい。あの地球が誕生する時、何かしらの衝撃で分裂して出来たのがこの星だと科学者たちは言っているが、ルナには空の向こうの話など、さほど興味がなかった。
ルナがただただ知りたいのは、12年前に突然姿を消した父の消息だけだ。
ベンは鉱石の商人だった。
リューナ国では国土の北に位置する鉱山でトゥル石という鉱石が採れる。他国にはないこの石は、古い言葉で『炎』を意味するらしく、その名の通り燃えるような真紅をしていた。
トゥル石は人々を魅了してやまず、国内外で高値で取引され、この国の経済を支える一方で、石目当ての密入国者を増やしてしまう罪深き存在でもあった。
過去には、シュタイラ国との間で、この石をめぐる争いも起きている。
リューナ国の南北の端をつなぐスール橋が建設される前、商人たちは鉱山までの石の買い付けのために、長く過酷な経路を辿らなければならなかった。
道中、事故により命を落とす者もいたが、異変が起きはじめたのは20年前だ。
森や砂漠で兵士や役人、商人たちが行方不明になる事件が頻発しはじめたのだ。
『森や砂漠で人を喰うバケモノが出るらしいぞ』
その噂は人々の間に瞬く間に広がり、アルブの西の王都―クレスタの王の耳まで届くのにさほど時間はかからなかった。
王はすぐさま役人を派遣し調べさせたが、そのバケモノを始末するどころか、見つけることさえできなかったのだった。
やがて、バケモノを恐れ、兵士や商人の数が激減したため、景気は悪化、街には失業者が溢れ、スール橋が完成するまでの約10年間、リューナ国は混乱の時代となった。
ベンは真面目で優しい父親だった。
バケモノ騒ぎで商人仲間が次々と仕事を辞めていく中、彼は家族を養うために働き続けた。
―そしてあの日も。
ルナは頬にキスを交わす挨拶が好きだった。でも、その日めずらしく父は寝坊し、ルナたちとまともな会話もしないまま、バタバタと仕事に出かけたのだった。
そして、12年間、ルナは父に挨拶のキスができないままでいる。
「なんだか疲れちゃったな…。」
日が暮れかけた細い街道は、オレンジと青の空の色に染まってキラキラと輝いている。
眩しい―。
疲れたのは、きっと仕事のせい、たくさん歩いたせい。あぁ、眩しい、夕焼けってこんなに眩しかったっけ…。
思わず目を細める。
緩やかな坂道の頂上に、小さなアーネス家が見えてきた。
「ん?」
―――何かいる。
「何?馬…?」
逆光になってよく見えないが、坂の頂上に馬らしき影がある。
うちは今は馬を飼ってないし、何だろう、迷い馬かなぁ?だったら飼い主を探さなきゃいけないし、ちょっと面倒かも。
眩しくて額に手を当てながら、ルナは急いで坂を登った。いつも平気なはずが、今日はやけに息が切れる。
やっぱり馬だ。それも漆黒の。でも、なんだかキレイ…。ここいらでよく見る馬より足も細くて長いし、体もすごく筋肉質だわ。こんな馬なら、また飼ってもいいかも。
そんなことを考えながら、ルナは近づく。
「よしよし、おいで。お前どこから来たの?」
馬の扱いなら慣れている。こうして額をなでてあげれば―
「馬扱いするな。」
誰!?
ピタリとルナの手が止まる。
誰かいるのかしら?飼い主?でも一体どこに―?
周りを見渡すが誰もいない。
「ルナ、どこを見ている。オレが話している。」
えっ!?どこ!?
「ここだ、お前の目の前だ。」
「馬!?」
「馬だが、馬扱いするな。」
馬がしゃべるなんて聞いたことない。いや、そういえば夢の中の白馬は何かしゃべっていたっけ。
でもあれは私の夢だし、でもこれは夢じゃないし…。
「私、やっぱり今日は疲れすぎたのかな…。」
「いい加減にしろ。」
やっぱりしゃべってる…!
「ルナ、オレはお前に用があって来た。これからオレが話す事をよく聞け、それから質問にも答えろ。」
「は…い…。」
驚きと緊張で声がかすれてしまう。でもこれはやはり現実だ。
なぜ私の名前を知っているのだろう?なぜ馬が人間の言葉を話すのだろう?
次から次へとルナの頭の中で疑問が湧き出る。
「ルナ、お前、白くて瞳が金色の馬を知らないか?」
「えっ?」
それって、いつも夢に出てくる王子様の馬のことだろうか?
王子様はルナが勝手に思い込んでいるだけだが。
「あの…、実際に会ったわけじゃないですけど、よく白い馬が夢に出てきます…。あ、でも、昔父が飼ってたのが白馬だったから、ただ記憶に残ってるだけかも…。」
黒馬の瞳が少し見開く。
「そうか。そいつは多分オレのちょっとした知り合いだ。そいつは夢の中で何か言ってなかったか?」
なぜ私の夢に出てくる白馬がこの黒馬の知り合いになり得るのだろう?
ルナは全くわけが分からない。ただでさえ混乱しているというのに。
「えっと、何か話しているようにも見えました。でも、いつも聞き取れないんです…。」
「そうか…。」
黒馬は何かを考えているようだった。
「お前、父親は死んだと思うか?」
「父は死んでなんかいません!!」
……えっ!?
私、どうして…。
自分自身に驚いた。父は12年前に死んだことになっている。何度も何度も自分にそう言い聞かせて生きてきた。そうやって納得させて諦めないと苦しかった。
自分も母も、12年間そうしてなんとか過ごしてきたのだ。
なのに、どうして。
無意識に一筋の涙が頬を伝う。
黒馬の鋭い眼光がルナを真っ直ぐ捉える。
「…すまなかった。
とりあえず、オレとお前の目的は一致したわけだ。3日後、同じ頃にまた来る。旅に出る準備をしておけ。」
「!?」
「断言はできないが、お前の父親は、まだ生きてるかもしれん。
それと、オレの名は―ガレスだ。」
黒馬―ガレスは、そう言い終わらない内にくるりと向きを変え、高らかな蹄の音を鳴らしてあっという間に走り去っていった。
ルナが振り返った時には、もうほとんど姿が見えず、沈みかけた夕日を背にルナの影だけが長く伸びていた。
―お父さんが、生きている?―
ザザッー…!
風がルナの髪を揺らした。
頬に手を当てる。
涙の跡はもう乾いていた。
少女―ルナ・アーネスは、その肢体に見惚れてしまい動くことができない。
金色に光るその瞳は、こちらを見据え、何かを訴えかけているようにも見える。
白馬の口元が動く。
「―――――」
ルナに何かしゃべりかける。だがどうしても聞き取ることができない。
やがて白馬は白く淡い光の筋を残して去って行った。
またあの夢だ。
「はぁ…。」
硬いベッドの上で、ルナは一つ溜息をついた。
ルナはこの夢が嫌いではない。いや、むしろ、この夢を見ると幸せな気持ちになる。
あの白馬は、いつかきっと、私をこの辛い現実から連れ出してくれるんだわ。そう、王子様の馬に違いない…!私が望んでるから、何度も夢に出てきてしまうのね…。
ふと、窓辺の小さなチェストに目をやる。
父が笑っていた。
チェストの上の写真の中で、ルナの父―ベン・アーネスは今朝もさわやかな笑顔だ。
―ズキン―
胸が痛む。
それと同時に、土の臭いがした。
「お父さん、おはよう。」
ルナは小さく呟いた。
「あら、おはよう。今朝は早いのね。」
コップにミルクを注ぎながら、母親が声をかける。
「お母さん、おはよう。今日は隣町まで行くから。」
「そう、大変ね。お母さんも今日は少し帰りが遅くなりそうだわ。」
「わかった!お互いがんばろ。」
「ええ、そうね。」
ルナは働いている。近所の文具屋だ。今日は久しぶりに隣町まで仕入れに行くのだ。
文具屋の店主は、はじめ15の少女を雇うことをためらった。この国―リューナ国では10代の子供が働きに出ることはめずらしい。
しかし、その理由を知り、店主はルナを雇わざるを得なかった。
店主の予想を裏切り、このおさげ髪で童顔の少女は人一倍働いた。
3年経った今では、一人で仕入れを任される程、ルナは店主の信頼を得ていた。
「フフフーン~。」
隣町の街道を歩きながら、つい鼻歌がもれる。
たとえ仕事であっても、久しぶりの遠出は楽しい。
「ちょっと寄り道して、あそこの雑貨屋にでも寄っちゃおうかな。」
なんて考えていた時だった。
「おい…、聞いたか…?」
「あぁ。」
「隣町のジルさんとこの息子、行方不明だってよ。」
男たちの低い声が、思わずルナの足を止めた。心臓がバクバクと音を立てはじめるのが分かった。
「あぁ、聞いたさ。たしか息子は兵士になったって言ってたよな…?」
「あぁ、そうだ。きっとバケモノに喰われちまったに違いねぇ。ジルさんも気の毒だよな、息子が兵士になったってすげぇ喜んでたのによ。」
「怖えなぁ~。今はまだいいけどよ、アルブにまでヤツらがやって来たら、俺たちもおしまいだぜ…。」
「そうだな…。」
ルナはしばらく動けなかった。
お父さん…。
アルブはこの国の都市の名前だ。
ルナの住む国、リューナ国は小さな星に存在しており、海を挟んでスラーイ国とシュタイラ国の2国があった。
空の中、かすかに見える青い惑星は、地球というらしい。あの地球が誕生する時、何かしらの衝撃で分裂して出来たのがこの星だと科学者たちは言っているが、ルナには空の向こうの話など、さほど興味がなかった。
ルナがただただ知りたいのは、12年前に突然姿を消した父の消息だけだ。
ベンは鉱石の商人だった。
リューナ国では国土の北に位置する鉱山でトゥル石という鉱石が採れる。他国にはないこの石は、古い言葉で『炎』を意味するらしく、その名の通り燃えるような真紅をしていた。
トゥル石は人々を魅了してやまず、国内外で高値で取引され、この国の経済を支える一方で、石目当ての密入国者を増やしてしまう罪深き存在でもあった。
過去には、シュタイラ国との間で、この石をめぐる争いも起きている。
リューナ国の南北の端をつなぐスール橋が建設される前、商人たちは鉱山までの石の買い付けのために、長く過酷な経路を辿らなければならなかった。
道中、事故により命を落とす者もいたが、異変が起きはじめたのは20年前だ。
森や砂漠で兵士や役人、商人たちが行方不明になる事件が頻発しはじめたのだ。
『森や砂漠で人を喰うバケモノが出るらしいぞ』
その噂は人々の間に瞬く間に広がり、アルブの西の王都―クレスタの王の耳まで届くのにさほど時間はかからなかった。
王はすぐさま役人を派遣し調べさせたが、そのバケモノを始末するどころか、見つけることさえできなかったのだった。
やがて、バケモノを恐れ、兵士や商人の数が激減したため、景気は悪化、街には失業者が溢れ、スール橋が完成するまでの約10年間、リューナ国は混乱の時代となった。
ベンは真面目で優しい父親だった。
バケモノ騒ぎで商人仲間が次々と仕事を辞めていく中、彼は家族を養うために働き続けた。
―そしてあの日も。
ルナは頬にキスを交わす挨拶が好きだった。でも、その日めずらしく父は寝坊し、ルナたちとまともな会話もしないまま、バタバタと仕事に出かけたのだった。
そして、12年間、ルナは父に挨拶のキスができないままでいる。
「なんだか疲れちゃったな…。」
日が暮れかけた細い街道は、オレンジと青の空の色に染まってキラキラと輝いている。
眩しい―。
疲れたのは、きっと仕事のせい、たくさん歩いたせい。あぁ、眩しい、夕焼けってこんなに眩しかったっけ…。
思わず目を細める。
緩やかな坂道の頂上に、小さなアーネス家が見えてきた。
「ん?」
―――何かいる。
「何?馬…?」
逆光になってよく見えないが、坂の頂上に馬らしき影がある。
うちは今は馬を飼ってないし、何だろう、迷い馬かなぁ?だったら飼い主を探さなきゃいけないし、ちょっと面倒かも。
眩しくて額に手を当てながら、ルナは急いで坂を登った。いつも平気なはずが、今日はやけに息が切れる。
やっぱり馬だ。それも漆黒の。でも、なんだかキレイ…。ここいらでよく見る馬より足も細くて長いし、体もすごく筋肉質だわ。こんな馬なら、また飼ってもいいかも。
そんなことを考えながら、ルナは近づく。
「よしよし、おいで。お前どこから来たの?」
馬の扱いなら慣れている。こうして額をなでてあげれば―
「馬扱いするな。」
誰!?
ピタリとルナの手が止まる。
誰かいるのかしら?飼い主?でも一体どこに―?
周りを見渡すが誰もいない。
「ルナ、どこを見ている。オレが話している。」
えっ!?どこ!?
「ここだ、お前の目の前だ。」
「馬!?」
「馬だが、馬扱いするな。」
馬がしゃべるなんて聞いたことない。いや、そういえば夢の中の白馬は何かしゃべっていたっけ。
でもあれは私の夢だし、でもこれは夢じゃないし…。
「私、やっぱり今日は疲れすぎたのかな…。」
「いい加減にしろ。」
やっぱりしゃべってる…!
「ルナ、オレはお前に用があって来た。これからオレが話す事をよく聞け、それから質問にも答えろ。」
「は…い…。」
驚きと緊張で声がかすれてしまう。でもこれはやはり現実だ。
なぜ私の名前を知っているのだろう?なぜ馬が人間の言葉を話すのだろう?
次から次へとルナの頭の中で疑問が湧き出る。
「ルナ、お前、白くて瞳が金色の馬を知らないか?」
「えっ?」
それって、いつも夢に出てくる王子様の馬のことだろうか?
王子様はルナが勝手に思い込んでいるだけだが。
「あの…、実際に会ったわけじゃないですけど、よく白い馬が夢に出てきます…。あ、でも、昔父が飼ってたのが白馬だったから、ただ記憶に残ってるだけかも…。」
黒馬の瞳が少し見開く。
「そうか。そいつは多分オレのちょっとした知り合いだ。そいつは夢の中で何か言ってなかったか?」
なぜ私の夢に出てくる白馬がこの黒馬の知り合いになり得るのだろう?
ルナは全くわけが分からない。ただでさえ混乱しているというのに。
「えっと、何か話しているようにも見えました。でも、いつも聞き取れないんです…。」
「そうか…。」
黒馬は何かを考えているようだった。
「お前、父親は死んだと思うか?」
「父は死んでなんかいません!!」
……えっ!?
私、どうして…。
自分自身に驚いた。父は12年前に死んだことになっている。何度も何度も自分にそう言い聞かせて生きてきた。そうやって納得させて諦めないと苦しかった。
自分も母も、12年間そうしてなんとか過ごしてきたのだ。
なのに、どうして。
無意識に一筋の涙が頬を伝う。
黒馬の鋭い眼光がルナを真っ直ぐ捉える。
「…すまなかった。
とりあえず、オレとお前の目的は一致したわけだ。3日後、同じ頃にまた来る。旅に出る準備をしておけ。」
「!?」
「断言はできないが、お前の父親は、まだ生きてるかもしれん。
それと、オレの名は―ガレスだ。」
黒馬―ガレスは、そう言い終わらない内にくるりと向きを変え、高らかな蹄の音を鳴らしてあっという間に走り去っていった。
ルナが振り返った時には、もうほとんど姿が見えず、沈みかけた夕日を背にルナの影だけが長く伸びていた。
―お父さんが、生きている?―
ザザッー…!
風がルナの髪を揺らした。
頬に手を当てる。
涙の跡はもう乾いていた。