碧い人魚の海
 わたくし、戦争が終わりかけていたのに、なぜあの人が死んでしまったのかが知りたくて、術師を探したの。骨のかけらを視(み)てもらおうと思って。といって、術師は大抵貴族とつながりがあるわ。だから、ごまかされるのは嫌だと思って、自分から町に出ていって、身分の隔てなく依頼を受ける、貴族とのつながりのない術師を探しまわったわ。
 そうしたら、一人の術師に出会ったの。それが思わぬ有能な術師だったから、知りたいと思っていたことのほかにもいろいろなことがわかったのよ。
 彼ね、拷問で死んだの。敵に捕らえられて、カルナーナの軍の中枢部に関する機密を聞き出そうとされたの。でも彼は最期まで口を割らなかった。

 夫の遺品は、カルナーナ政府筋にも送られてきていたみたいで、そちらも術師を呼んで調べたらしいわ。そうしたらやはり、彼が拷問死したという事実が明るみになったの。
 カルナーナの中枢では既に戦争を終結させる方向に動き始めていたから、夫は釈放される予定だった。彼が捕えられてカルナーナの機密を聞き出そうとされたことで、カルナーナ側は、アララークに疑念を抱いてしまったの。彼の死は、起こってはならない手違いとされていたけれども、本当はカルナーナの機密を聞き出して、停戦ではなく完全に国を解体して支配下においてしまおうとしているのではないかって。
 それをきっかけに、あやうく停戦協定が流れてしまうところだったけれども、首相は頭の固い老人たちを説き伏せて、改めて停戦にこぎつけた。それも、カルナーナの不利益にはならない形で。
 夫のことについては一度は首相から釈明と謝罪をいただいていたのだけれども、本当はね、ただの手違いでも、アララークの暴走ですらなかったのよ。

 彼を捕えたアララークの側の一部の貴族たちは裏でこの国の貴族たちとつながっていた。しかも、父ブリュー侯爵は、その首謀者だったわ。
 停戦条約を覆すための陰謀にわたくしの夫は巻き込まれ、利用されて死んでしまった。
 父はついでに血統の悪いわたくしの配偶者を始末できて、一石二鳥だとも考えていたみたいね。今度はちゃんと貴族の血統を継いだ男と結婚させようとも思っていたみたい。
 それから父のことは全部カルナーナの国にお任せして、ずっと会わずにいたのよ」
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