碧い人魚の海
「ジゼルさま、術師というのは、遠いところで起こった出来事を、目の前にあるかのように見せることができるんですか?──ぼくは実際にはそういったものを目の当たりにした経験がないのですが」
「ええ」
「あなたはご主人が拷問死された場面を、その、ご覧になったんですか」
「ええ」
ジゼルは物憂げに小さく頷いた。
「ただ、術師の言うには、そこまでは骨を送った側は織り込み済みで、その場面に限っては術で呼び出しやすくしているということだった。大抵の術師はそれで満足して帰っていくだろうからって。彼はたまたま、もう少し高度な術を扱うことができたので、送った側が意図していない周辺の物事まで、陰謀も含め、写し取って見せてくれたの。
精度の高い魔術をあやつるものはごく限られているといわれているわ。その術師は自分のことを、グレイハートの3の弟子、とだけ名乗っていた。まだ自分の名前が持てないのだと言っていたわ」
「賢者グレイハートですか? 噂には聞いたことがあります。永らくどこの国にもどこの組織にも属さない賢人だったが、先だってアララーク連邦元首アルベルト・ウォルフ・メーレンの軍門に下ったとかどうとか」
「それでね、ロビンの──」
言いかけて、ジゼルはアートを見上げて微笑んだ。
「ねえ、ところで、人魚にロビンって名前をつけたのよ」
「そうらしいですね。人魚が喜んでましたよ。得意げに自分で名乗っていました」
「まあ、あの子ったら可愛いわね。名前、気に入ってもらえてよかったわ」
***
ちょうどそのとき。
隣の部屋でおとなしく目を閉じていながらも、まだ目が覚めたままだったルビーは、彼の言葉にこっそり腹を立てていた。
得意げにって、その言い方はないだろう。ブランコ乗りは、やっぱり失礼なやつだ。
「あのね、これはまだあの子に説明していないのですけれども、ロビンが座長さんと一緒に最初にここに来た夜にね、夫のことを調べるためにわたくしが探しだした術師の魔術と、同じ匂いがしたの。魔術そのものが同じだから同じ匂いだったのか、同じ人──つまりグレイハートの3の弟子──が関わっているからなのか、どちらが原因だったのかは、よく分からかったのだけれども」
「あのときは、あなたの様子も何か変でした」
「ええ」
「あなたはご主人が拷問死された場面を、その、ご覧になったんですか」
「ええ」
ジゼルは物憂げに小さく頷いた。
「ただ、術師の言うには、そこまでは骨を送った側は織り込み済みで、その場面に限っては術で呼び出しやすくしているということだった。大抵の術師はそれで満足して帰っていくだろうからって。彼はたまたま、もう少し高度な術を扱うことができたので、送った側が意図していない周辺の物事まで、陰謀も含め、写し取って見せてくれたの。
精度の高い魔術をあやつるものはごく限られているといわれているわ。その術師は自分のことを、グレイハートの3の弟子、とだけ名乗っていた。まだ自分の名前が持てないのだと言っていたわ」
「賢者グレイハートですか? 噂には聞いたことがあります。永らくどこの国にもどこの組織にも属さない賢人だったが、先だってアララーク連邦元首アルベルト・ウォルフ・メーレンの軍門に下ったとかどうとか」
「それでね、ロビンの──」
言いかけて、ジゼルはアートを見上げて微笑んだ。
「ねえ、ところで、人魚にロビンって名前をつけたのよ」
「そうらしいですね。人魚が喜んでましたよ。得意げに自分で名乗っていました」
「まあ、あの子ったら可愛いわね。名前、気に入ってもらえてよかったわ」
***
ちょうどそのとき。
隣の部屋でおとなしく目を閉じていながらも、まだ目が覚めたままだったルビーは、彼の言葉にこっそり腹を立てていた。
得意げにって、その言い方はないだろう。ブランコ乗りは、やっぱり失礼なやつだ。
「あのね、これはまだあの子に説明していないのですけれども、ロビンが座長さんと一緒に最初にここに来た夜にね、夫のことを調べるためにわたくしが探しだした術師の魔術と、同じ匂いがしたの。魔術そのものが同じだから同じ匂いだったのか、同じ人──つまりグレイハートの3の弟子──が関わっているからなのか、どちらが原因だったのかは、よく分からかったのだけれども」
「あのときは、あなたの様子も何か変でした」