碧い人魚の海
打って変わって首相は愉快そうに言う。
「人は魔となるが、魔は人となるか。ふむ、わからんものだな。南の島で会ったときのことを覚えているか、人魚。おまえさんは、あのときに比べて、ずいぶんと人らしくなった」
「どういうことですか?」
「無意識にでも、人を呪力で縛るのを避けたということだよ。こちらに来てからおまえさんは、いろいろなことを学んだのだろう?」
鋭さを秘めた首相の目を見返そうとして、結局ルビーは目をそらした。この男の目は、人魚の長老やモリオンと名乗った少女の目と、ある意味同じだ。
何を見透かされるか、わかったものではない。
首相はルビーの肩越しに、その後ろに立つブランコ乗りを見た。
「アルトゥーロといったか。おまえさんに関しては問題はなかろう。おまえさんにかけられた術は、今後、守護の呪文としてしか働かんだろうからな。つまりおまえさんはもう、ほかのだれからも言霊の支配を受けることはないということだ。よかったじゃないか」
「……はあ」
よかったじゃないかといわれても、魔術だの呪術だのと普段は縁のない世界の人間にとって、ピンと来るはずもない。ブランコ乗りは、腑に落ちない顔で首を傾げただけだった。
ルビーはさっきブランコ乗りが言いかけた言葉の続きとともに、彼が自分のことをどう思っているのかが、ふと気になった。舞姫と同じように、人間の女の子だと思ってくれていたのが、いまは気味の悪い魔物だと思われているかもしれない。
アンクレットに力を抑え込まれる前は、ちょっとした力を、思うままに振るっていた。悪戯にも使ったことがあるし、人を怖がらせるのに利用したこともある。それでも、本当の意味で人を傷つけたり害したりは避けてきたつもりだったけど。
喉をふさいで息をできなくさせたのは、いま思えば結構悪質だったかもしれない、とも思う。あとで自分が窒息しそうになって、怖さを実感したせいもある。
自分のことのように舞姫が怒り狂ってくれたのは、びっくりしたけど嬉しかった。
それと同時に、あの浜辺でルビーが倒した男たちが、もしも舞姫の友だちだったら、やはり同じように彼女は怒り狂っていただろうな、とも思う。その場合、怒りの矛先は自分に向いていたはずだ。
「人は魔となるが、魔は人となるか。ふむ、わからんものだな。南の島で会ったときのことを覚えているか、人魚。おまえさんは、あのときに比べて、ずいぶんと人らしくなった」
「どういうことですか?」
「無意識にでも、人を呪力で縛るのを避けたということだよ。こちらに来てからおまえさんは、いろいろなことを学んだのだろう?」
鋭さを秘めた首相の目を見返そうとして、結局ルビーは目をそらした。この男の目は、人魚の長老やモリオンと名乗った少女の目と、ある意味同じだ。
何を見透かされるか、わかったものではない。
首相はルビーの肩越しに、その後ろに立つブランコ乗りを見た。
「アルトゥーロといったか。おまえさんに関しては問題はなかろう。おまえさんにかけられた術は、今後、守護の呪文としてしか働かんだろうからな。つまりおまえさんはもう、ほかのだれからも言霊の支配を受けることはないということだ。よかったじゃないか」
「……はあ」
よかったじゃないかといわれても、魔術だの呪術だのと普段は縁のない世界の人間にとって、ピンと来るはずもない。ブランコ乗りは、腑に落ちない顔で首を傾げただけだった。
ルビーはさっきブランコ乗りが言いかけた言葉の続きとともに、彼が自分のことをどう思っているのかが、ふと気になった。舞姫と同じように、人間の女の子だと思ってくれていたのが、いまは気味の悪い魔物だと思われているかもしれない。
アンクレットに力を抑え込まれる前は、ちょっとした力を、思うままに振るっていた。悪戯にも使ったことがあるし、人を怖がらせるのに利用したこともある。それでも、本当の意味で人を傷つけたり害したりは避けてきたつもりだったけど。
喉をふさいで息をできなくさせたのは、いま思えば結構悪質だったかもしれない、とも思う。あとで自分が窒息しそうになって、怖さを実感したせいもある。
自分のことのように舞姫が怒り狂ってくれたのは、びっくりしたけど嬉しかった。
それと同時に、あの浜辺でルビーが倒した男たちが、もしも舞姫の友だちだったら、やはり同じように彼女は怒り狂っていただろうな、とも思う。その場合、怒りの矛先は自分に向いていたはずだ。