碧い人魚の海
舞姫は、人間の男と女がするようなことをルビーが貴婦人にされたのではないかと心配している様子だった。
多分、あのとき貴婦人はそうするつもりだったのだろうとも思う。
あの日ルビーは夕食のメインディッシュになってしまったアシュレイのことで頭がいっぱいで、貴婦人のこともブランコ乗りのことも、どこか遠くで起こっている出来事のようにしか感じられなかったのだけれども。
ルビーは目を見開いて、かぶりを振った。といってアシュレイのことを舞姫にどう説明すればいいのかがわからない。
「ブランコ乗りは間に合ったわ。奥さまとは何もなかった。あたしはただ、奥さまとは関係のない別のつらいことがあって、それを思って泣いていただけなの」
「そっか。そうだね。つらいことってあるんだよね」
ルビーには漠然としか説明できなかったが、舞姫はそれで納得してくれたらしく、うんうんと頷いた。
「間に合ったんだったらよかったよ」
「あのときブランコ乗りが戻ってきたのは、あたしを助けるためだったの?」
今さらな質問だったけれども、ルビーはそう口に出して、舞姫に問いかけた。
「そりゃそうさ。あたしらは芸人だからお得意さんと寝ることだってある。けど、あんたみたいな若い子が、今からそんな真似をすることはないんだ。若いうちは好きな相手とだけ寝てりゃいいんだ。座長に何を言われても、ぬらりくらりと逃げてりゃいい」
「若い子っていうけど、舞姫はあたしとそんなに歳は違わないと思う。ブランコ乗りだって」
ルビーは首を傾げた。ナイフ投げはもう少し歳が上に見えたけど、舞姫とブランコ乗りは20歳をそんなに過ぎているようには見えない。
「あたしは積極的に逃げてるさ。座長はすぐ金に目がくらむから結構揉めるけど、強気で通してる。ま、ブランコ乗りだったら多情だから女に関してなら何も問題ないよ。むしろあの男には、好きじゃない女を捜す方が難しいんじゃないかね」
あっけらかんとそう言うと、舞姫はけらけらと笑った。
「あたし、ブランコ乗りにお礼を言ってない。それに、きょうだって助けてもらったのに無視しちゃったし」
「あんたはあいつの軽口が気に障るんだろう」
聞かれてルビーは頷いた。
「最初からすごい馴れ馴れしいんだもの。あのキザったらしい言葉づかいとか聞いてると、なんだか背中がゾワゾワしてくるの」
多分、あのとき貴婦人はそうするつもりだったのだろうとも思う。
あの日ルビーは夕食のメインディッシュになってしまったアシュレイのことで頭がいっぱいで、貴婦人のこともブランコ乗りのことも、どこか遠くで起こっている出来事のようにしか感じられなかったのだけれども。
ルビーは目を見開いて、かぶりを振った。といってアシュレイのことを舞姫にどう説明すればいいのかがわからない。
「ブランコ乗りは間に合ったわ。奥さまとは何もなかった。あたしはただ、奥さまとは関係のない別のつらいことがあって、それを思って泣いていただけなの」
「そっか。そうだね。つらいことってあるんだよね」
ルビーには漠然としか説明できなかったが、舞姫はそれで納得してくれたらしく、うんうんと頷いた。
「間に合ったんだったらよかったよ」
「あのときブランコ乗りが戻ってきたのは、あたしを助けるためだったの?」
今さらな質問だったけれども、ルビーはそう口に出して、舞姫に問いかけた。
「そりゃそうさ。あたしらは芸人だからお得意さんと寝ることだってある。けど、あんたみたいな若い子が、今からそんな真似をすることはないんだ。若いうちは好きな相手とだけ寝てりゃいいんだ。座長に何を言われても、ぬらりくらりと逃げてりゃいい」
「若い子っていうけど、舞姫はあたしとそんなに歳は違わないと思う。ブランコ乗りだって」
ルビーは首を傾げた。ナイフ投げはもう少し歳が上に見えたけど、舞姫とブランコ乗りは20歳をそんなに過ぎているようには見えない。
「あたしは積極的に逃げてるさ。座長はすぐ金に目がくらむから結構揉めるけど、強気で通してる。ま、ブランコ乗りだったら多情だから女に関してなら何も問題ないよ。むしろあの男には、好きじゃない女を捜す方が難しいんじゃないかね」
あっけらかんとそう言うと、舞姫はけらけらと笑った。
「あたし、ブランコ乗りにお礼を言ってない。それに、きょうだって助けてもらったのに無視しちゃったし」
「あんたはあいつの軽口が気に障るんだろう」
聞かれてルビーは頷いた。
「最初からすごい馴れ馴れしいんだもの。あのキザったらしい言葉づかいとか聞いてると、なんだか背中がゾワゾワしてくるの」