碧い人魚の海
 と、舞姫は自分の下腹部のショートパンツで隠れた部分を親指でトンと叩き、目を丸くするルビーにいたずらっぽく笑いかけた。

「あとで男どもが帰ったら見せてあげるね。こっちは青いペガサスだよ。これも翼を広げてこれから飛ぶところなんだ。タトゥーっていうのは専用の塗料を使って皮膚の奥の方にまで色を刺し込んでいくんだよ。人気のある彫師(ほりし)は予約でいっぱいで、中には半年待ちなんてのもある」

「レイラ、あんたの趣味の話はあとにしてくれ。本題に戻るぞ」
 ナイフ投げが、ややぶっきらぼうに、舞姫の話を遮った。

「人魚、あんたが人買いから買われてきたにもかかわらず、認識番号がどこにもない理由として、二つの可能性が考えられる。
 その一つ目は、あんたの姿があまりにも特徴的だから、改めて印をつける必要がないと考えられていた可能性だ。この場合は、登記庁に行けば、番号自体は尻尾などのあんたの身体的特徴とともに届け出されているということになる。
 もう一つの可能性だが、あんたが人間でない別の生き物とみなされて、登記そのものがなされていないということもあり得る。例えば犬や猫などの他の動物が登記できないのと同じ理由だ」

「二つのケースについて比較したら、どっちの場合だった方がやっかいなの?」
「どちらも同じくやっかいだ」
 舞姫が投げかけた質問に、仏頂面でナイフ投げはそう答えた。
「もちろん座長がそのことに気づかなければ問題ないんだが、座長の性格からしてそれはない。つまり問題はだな、これから登録に行くのか、あらかじめ登録してあるかについてはわからんが、座長はこれからあんた自身にも番号をつける必要性について思いつくだろうってことだ」

 そこでナイフ投げは言葉を切って、ブランコ乗りを振り返った。
「おい、アート。おまえもだんまりを決め込んでないで、なんか言え」
「あんたの話を聞いてるんだ」
 さっきからずっと考え込む顔で黙り込んでいたブランコ乗りは、顔を上げて短くそう答えた。
 ナイフ投げはため息をついた。
「しゃべりは苦手だ。うまくまとめられない」

「話を続けて、ハル」
 舞姫が促した。
「わかんないことがあったら聞き返すよ。つまりさ、座長は早ければ明日の朝にでも彫師(ほりし)のところへ人魚を連れていくんじゃないかってことだね」

 ナイフ投げは頷いた。
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