碧い人魚の海
といって例えばロクサムを説得して自分と一緒に連れ出してしまうのも、それはそれで違う気がする。
大体ロクサムがここを出てどこかに行きたいと思っているかどうかすら、ルビーにはよくわからない。
「当てならあるんだ、もしきみがよければ──」
「ブランコ乗り、それはあなたの知り合いで、あたしの知り合いではないわ」
静かな声で、それでもきっぱりと、ルビーはブランコ乗りの言葉を遮った。
「あたしはあなたをよく知らないし、あなたにそこまでしてもらういわれはない気がする。この国の決まりに逆らって捕まるようなリスクを冒してまで、って意味だけど。それにあたしだけが逃げてもここにいる他の人たちの状況が変わるわけじゃないし、あたしよりも、他の逃げたくても逃げられない人が逃げる方が先じゃないのかしら。
それよりブランコ乗り、あたしに空中ブランコを教えて」
ブランコ乗りはどう返答しようか考えあぐねた様子だった。少し間が空いたあと、彼はぼそりとつぶやいた。
「かんべんしてくれ」
「言いだしっぺはアート、あんたじゃん」
すかさず横から舞姫にそう突っ込まれ、彼は困った表情で言い返した。
「はずみで言っただけだよ。生半可なことじゃ舞台に出せるようにはならないし、失敗すれば命を落とす演目だし」
「けどブランコ乗り、あなたは舞台に出てるし、死なずに生きてるじゃない」
「ずっと続けていたら、多分いつか命を落とすよ」
ルビーの言葉にブランコ乗りはそう反論したのち、言い直した。
「いや、必ずいつか、命を落とす」
「アート、あんた、そんなこと考えながら続けてんのかい?」
「いや、ぼくの話じゃない。ぼくは別にいいんだ。自分で体調管理をするし、続けられるかどうかの自己判断ができる立場だから。だけど、ここに買われてきて座長が最終決定権を持っている人間はもっと用心なきゃいけないし、危険な演目にはなるべく手を出さない方がいい。
ていうか、赤毛ちゃん、そもそもぼくは、きみが承知すると思わなかったんだ。きみはぼくのことが嫌いみたいだから、ぼくと組むのは避けると思ったのに」
「あたしは馴れ馴れしくされるのが嫌なだけ」
そう肩をそびやかしたルビーだったが、ふと疑問がわいた。
「あたしがあなたを嫌っていると思っていたのに、あなたは助けてくれたの?」
「そりゃ、ね」
と、ブランコ乗りはため息をついた。
大体ロクサムがここを出てどこかに行きたいと思っているかどうかすら、ルビーにはよくわからない。
「当てならあるんだ、もしきみがよければ──」
「ブランコ乗り、それはあなたの知り合いで、あたしの知り合いではないわ」
静かな声で、それでもきっぱりと、ルビーはブランコ乗りの言葉を遮った。
「あたしはあなたをよく知らないし、あなたにそこまでしてもらういわれはない気がする。この国の決まりに逆らって捕まるようなリスクを冒してまで、って意味だけど。それにあたしだけが逃げてもここにいる他の人たちの状況が変わるわけじゃないし、あたしよりも、他の逃げたくても逃げられない人が逃げる方が先じゃないのかしら。
それよりブランコ乗り、あたしに空中ブランコを教えて」
ブランコ乗りはどう返答しようか考えあぐねた様子だった。少し間が空いたあと、彼はぼそりとつぶやいた。
「かんべんしてくれ」
「言いだしっぺはアート、あんたじゃん」
すかさず横から舞姫にそう突っ込まれ、彼は困った表情で言い返した。
「はずみで言っただけだよ。生半可なことじゃ舞台に出せるようにはならないし、失敗すれば命を落とす演目だし」
「けどブランコ乗り、あなたは舞台に出てるし、死なずに生きてるじゃない」
「ずっと続けていたら、多分いつか命を落とすよ」
ルビーの言葉にブランコ乗りはそう反論したのち、言い直した。
「いや、必ずいつか、命を落とす」
「アート、あんた、そんなこと考えながら続けてんのかい?」
「いや、ぼくの話じゃない。ぼくは別にいいんだ。自分で体調管理をするし、続けられるかどうかの自己判断ができる立場だから。だけど、ここに買われてきて座長が最終決定権を持っている人間はもっと用心なきゃいけないし、危険な演目にはなるべく手を出さない方がいい。
ていうか、赤毛ちゃん、そもそもぼくは、きみが承知すると思わなかったんだ。きみはぼくのことが嫌いみたいだから、ぼくと組むのは避けると思ったのに」
「あたしは馴れ馴れしくされるのが嫌なだけ」
そう肩をそびやかしたルビーだったが、ふと疑問がわいた。
「あたしがあなたを嫌っていると思っていたのに、あなたは助けてくれたの?」
「そりゃ、ね」
と、ブランコ乗りはため息をついた。