碧い人魚の海
 ルビーはそれを、天井に近いこの場所からもう一度確認したいのかもしれない。

「いいけど、一つ条件がある」
 ブランコ乗りはロープの上でぐるっと身体を倒し、片足の甲だけをロープに引っかけた不安定極まりない宙ぶらりんの状態でさかさまになって、ルビーを見上げた。
「きみが自由の身になるまでは、興行として観客の前には立たないって約束してくれたら、教えてもいい」

「どうして?」
「どれだけ鍛錬を積んでも、好調なときもあれば不調なときもあるのが人間だから。いまのままだと、たとえば風邪を引いていたとしても、その日出演するしないを自分の都合で決められない」
「それだと、この先演目には絶対出られないってことにならない?」
 さっきナイフ投げがルビーに説明したばかりだった。この見世物小屋では買われてきた人間には給料は出ない。だから、自分でお金を貯めて自由を買い取るなどというのは、夢の夢だと。

「その可能性もあるね」
「それは嫌」
「それは困った。ぼくもそれだけは譲れない」
「教えてくれるって言ったわ」
「ああ、言った。うかつにも。言ったから、どうしてもときみが言うなら指導するよ。でも、舞台に立つための許可を出す条件は、十分に上達するだけでなく、きみが自由になって独立すること。考えておいてくれ」

 ルビーは不満だったが、どう言えばブランコ乗りを説得できるのかはわからなかった。
 舞姫も、ナイフ投げも何も言わなかった。
 さかさまの状態から振りをつけてくるりと半回転し、ブランコ乗りは再び片足をロープに乗せて立ち、皆を促した。
「暗くなる前に降りよう。もうじき月が沈む」
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