碧い人魚の海
 曲がった背中をますます丸め、がっくりと肩を落としながら、ロクサムは弱々しい声になる。

 火を眺めながらルビーは、つぶやくともなく小さな声で言った。
「あのね、ロクサム。あたしもそうなの。大切なお友達が死んでしまったの。あたし、何度も振り返って、そのお友達のことを助けられたかもしれない場面までさかのぼって思い返してしまうの。でも、何度思い返しても、そのとき、どうやったらあたしにそれができてたのかが、今でも全然わかんない」

 死んでしまったアシュレイを思いながら、ルビーは膝を抱えた。
 アシュレイのことは、ルビーが水槽の中に閉じ込められていたときのこととも事情が違う。
 あのときアシュレイを助ける鍵を握っているのは、自分だけだったのだから。アシュレイの行動に責任を負っていたのも。
 ルビーがあんな場所まで連れてきていなければ。海のあんな浅くで待っているように言わなければ。考えたって仕方ないと思いながらも、もしもあのとき違う判断をしていたら、もしも違う行動をしていたらと、ルビーは考えずにはいられない。

 アシュレイのことは、これから先もこうやって、何度も何度も思い出すのだろう。
 そして、船の上から海に飛び込んだルビーがアシュレイに最後に投げつけた、不用意で無神経なあの命令の言葉を、きっと何度も後悔するのだ。

「とっ、友だちが死んじゃったの?」
 顔を上げると、泣きそうな顔のロクサムの視線とぶつかった。
「助けたいのに、助けられなくて死んじゃったの?」
「うん……」
 何の説明もしていないのに、ロクサムが自分のことのように悲しんでくれているのが伝わってきて、なぜかしらルビーはそれにとても慰められた。

「ねえ、ロクサム。陸(おか)に連れて来られて、怪我をして心細かったときに、そばにいてくれたのはロクサムよ。でも、多分それだけじゃないの。そばにいてくれるならだれでもいいってわけじゃなかったと思う」
 しゃれた言葉の一つも言えない素朴なこぶ男の、不器用で一生懸命な態度の一つ一つに、ルビーはずいぶんと慰められてきたのだ。

 ほんの少し前、捕まえたトンボを秋の空に放つときのロクサムの手の動きを、ルビーは思い出す。繊細な羽根を傷つけないように細心の注意を払って、彼は持ち込んだトンボを指の間から解き放った。
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