碧い人魚の海
これまで意識もしていなかった微かな仲間意識が壊れたのを、ロクサムは心のどこかで感じていた。少女は自分とは違うのだと、異形ではあってもその可憐さと完璧さゆえに、たくさんの人々に愛され受け入れられる存在なのだと思い知らされたのだ。
あの日の夜、少女は、貴婦人の招待を受けた他のメンバーより少し遅れて戻ってきた。
そのときちょうどロクサムは、その日に出た最後のゴミをもう一度焼き終わって、ゴミ焼場の火の番をしていたところだったから、少女が帰って来たときの様子はよく知らない。
その翌朝。
ロクサムはいつものように、朝食の盆を人魚の部屋まで運んだ。昼食と夕食を人魚の部屋まで運ぶ係は別にいたが、朝のうちはロクサムも少しなら時間が取れたし、世話をしている立場としては人魚の体調を知る必要もあったので、いつも自分で持っていくことにしていた。
いつもの朝とは違って、少女はまだ眠っていた。白いシーツにくるまって、小さく寝息を立てながら。きらきら光る赤い髪が、白い小さな顔をとりまいて寝台の上に広がっていた。シーツから頼りなげな肩と細い腕が覗いている。
少女の枕元に食べ物の入ったトレイを置いたあと、声をかけて起こそうかどうしようかロクサムは迷った。ゆうべの慣れない外出で、少女は疲れ切って寝ているのかもしれない。だからそっとしておいてあげた方がいいのかも。でも、起こさずこのまま出ていくと、朝食は温かいうちに食べたかったとあとで思うかもしれない。
すやすやと眠る少女を前にロクサムが思案していると、少女は不意に寝がえりを打った。少女が横を向いた拍子にシーツがめくれ、その剥き出しの両脚が、ロクサムの目に飛び込んでくる。
脚?
ぎょっとして、ロクサムはもう一度目を凝らした。
そこにあるはずの、赤い小さなうろこに覆われた尻尾がない。代わりに、サラサラの絹のワンピースの裾から、すんなりとした形のよい2本の白い脚がのぞいていた。
ちょうど左の足首に宝石のように赤いつるんとした石でできたアンクレットがはめられている。その赤と白のコントラストが目に鮮やかで、ロクサムはなぜか見てはいけないものを見てしまった気がして、うろたえた。
あの日の夜、少女は、貴婦人の招待を受けた他のメンバーより少し遅れて戻ってきた。
そのときちょうどロクサムは、その日に出た最後のゴミをもう一度焼き終わって、ゴミ焼場の火の番をしていたところだったから、少女が帰って来たときの様子はよく知らない。
その翌朝。
ロクサムはいつものように、朝食の盆を人魚の部屋まで運んだ。昼食と夕食を人魚の部屋まで運ぶ係は別にいたが、朝のうちはロクサムも少しなら時間が取れたし、世話をしている立場としては人魚の体調を知る必要もあったので、いつも自分で持っていくことにしていた。
いつもの朝とは違って、少女はまだ眠っていた。白いシーツにくるまって、小さく寝息を立てながら。きらきら光る赤い髪が、白い小さな顔をとりまいて寝台の上に広がっていた。シーツから頼りなげな肩と細い腕が覗いている。
少女の枕元に食べ物の入ったトレイを置いたあと、声をかけて起こそうかどうしようかロクサムは迷った。ゆうべの慣れない外出で、少女は疲れ切って寝ているのかもしれない。だからそっとしておいてあげた方がいいのかも。でも、起こさずこのまま出ていくと、朝食は温かいうちに食べたかったとあとで思うかもしれない。
すやすやと眠る少女を前にロクサムが思案していると、少女は不意に寝がえりを打った。少女が横を向いた拍子にシーツがめくれ、その剥き出しの両脚が、ロクサムの目に飛び込んでくる。
脚?
ぎょっとして、ロクサムはもう一度目を凝らした。
そこにあるはずの、赤い小さなうろこに覆われた尻尾がない。代わりに、サラサラの絹のワンピースの裾から、すんなりとした形のよい2本の白い脚がのぞいていた。
ちょうど左の足首に宝石のように赤いつるんとした石でできたアンクレットがはめられている。その赤と白のコントラストが目に鮮やかで、ロクサムはなぜか見てはいけないものを見てしまった気がして、うろたえた。