碧い人魚の海
「二人ともとても素敵。だって、とても見目麗しいんですもの。鍛えてあるから筋肉質で、でも骨ががっちりしすぎでないところも素敵。ハルは逞しいけど、肉がつき過ぎているわけでもない引き締まった身体をしているし、アーティなんて、面差しにはまだどこか少年っぽさが残るのに、腹筋はとても固いのよ」
なぜいまルビーが困惑しているかというと、貴婦人の話がなんとなくだけれども、どんどん生々しい方向に進みそうな気がしているせいだ。
ブランコ乗りの腹筋がどれだけ固かろうが六つに割れていようがルビーには関係なかったし興味もない。ナイフ投げが二人きりのときに貴婦人に何を囁くのかなど、別に知りたくもない。
ところが貴婦人は、少し面白がっているような顔をして、ルビーの反応を窺いながら、さっきからルビーがどうにも反応に困るような話題ばかりを何度も振ってくるのだった。
ちなみにいまは、日差しもうららかな午後。場所は貴婦人の私室の南側にある白いテラスの白いテーブルと白いイス。テーブルの上には綺麗な朱の色のお茶とお菓子。ポットは白。カップもソーサーも白。
不思議な香りのするお茶をルビーがカップから飲み干すとすぐに、貴婦人はポットからお代わりを注いでくれる。
ルビーが貴婦人の部屋に通されてすぐに、貴婦人は人前ではずっと外さなかった黒いベールをとり去ってしまっていたから、いまは彼女がどんな表情をしているのかがよくわかる。
ベールをとった貴婦人は、最初イメージしていたよりもずいぶん若かった。20代半ばぐらいだろうか。綺麗に結った髪はつややかな栗色で、長い睫毛にくっきり縁取られたハシバミ色の切れ長の目が印象的な美女だった。ただし、どこかけだるげな笑みを常に口元に浮かべている。
もちろん人魚の長老とはまるで似ていない。人魚の長老は透き通るような青白い肌をしていて、その目の色は暗くて深くて何度覗き込んでも判別がつかない。貴婦人の目は、多少アンニュイであっても普通の人間の目だ。
けれども全く共通の何かでくくれないかというと、何か共通のトーンがあるような気もした。それが何かはルビーにはよくわからなかったのだけれども。