誘惑して、キス
01 えろい女になりたい。
「先生は、セクシーな人が好きですか?それともキュートな人……?」
「は?」
ガヤガヤと騒がしい音が耳に届く、土曜日の居酒屋。
忘年会と言うには少し早いような気がするけど、一応これは忘年会らしい。
職場である小さなクリニック。
そこの院長である高倉先生を筆頭に、二人のベテラン看護師と見習い先生、そして事務員である私の五人がやってきたのは商店街に古くからある昔ながらの居酒屋さん。
今年も一年お疲れ様!と、勢いよくグラスを鳴らしたのは、もう二時間も前のこと。
気持ちよくお酒が体をぐるぐると巡ってきたところで、私は先生にそう問い掛けた。
私を見る先生の顔には、明らかに呆れが見える。またコイツめんどくせぇこと言い出すぞ、ってその目が語っている。
だけどそんなことは気にしないのだ。
だって、綺麗な二重瞼のその目が今は私だけに向けられている。なんて幸せなことだろう。
私は両手で握っているお酒をもう一口飲む。
「サクラちゃん、随分酔っぱらってるわねぇ」
「本当に先生のこと好きね、サクラちゃん」
私を冷やかす、おばちゃん……いや、お姉様の方の声が耳に届く。その言葉に大きく頷きたいところをぐっと我慢して先生だけを見つめる。
ずっと聞きたかったことだ。今聞かないでどうするんだ!
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