START to a show


各業界からの著名人に囲まれて、今日の成功を祝う言葉を次々に浴びせられていた紫乃は、俺を見つけるとほっとしたように嬉々として歩いてきた。

淡い藤色のドレスは長い裾でアシンメトリーにカットしてあり紫乃の足元で上品に…かつ幻想的に揺れる。それと相反してトップはまるで挑発しているかのように大きく胸元が開いている。


アクセサリー類は一切ない。が、そのシンプルないでたちこそ、紫乃の美しさを最大限に惹きだしていた。


『白い色は嫌いなの―――それよりもちょっと小悪魔的なところがあって可愛いじゃない』


そう言って挑発的な笑みを浮かべた彼女の胸元をちらりと見ると、深い谷間が作られていて俺はそれを見ないようにこのパーティー中必死に視線を泳がせていた。


紫乃の肉まんみたいな白い肌が、酒のせいかほんのり色付いている。
折れそうなヒールが傾き、足つきがおぼつかない。


「助かった。困ってたのよ、質問攻めで」
「そりゃ良かったな。だったら今日最後の“困った”願いを聞いてくれ」


俺が紫乃の華奢な肩を引き寄せると、
「お願いします」と記者を促した。
「あ、はい!じゃぁ撮りますね!!」
記者が慌ててデジカメを取り出し、
「ちょっと、どういうこと!」
「ショーの成功の後の一枚だ。顔を売るチャンスだぜ」
「私は顔を売らなくてもいいの」
と、また我儘女王様。

「いきますよ~」
笑顔の記者がデジカメを構え、紫乃は笑顔を作る間もなく
パシャ!
俺たち二人のツーショットがカメラにおさまった。


「そうゆうことなら来るんじゃなかったわ。もう私見世物はいやだからね」
「俺がお前をいつ見世物にした」
「あなたの手腕のお陰だとは重々承知だけど、あんまり勝手なことされるとギャラをカットよ」
「残念だな。税理士との打ち合わせは俺が全部やってる」
勝ち誇ったように笑うと、言い返す言葉も思い浮かばなかったのか、紫乃はぷいと顔をそむけて俺から離れていった。


あーあ、ありゃ完全怒らせちまったな。


ま、しょうがないか。
「ね、その写真あとで俺のパソコンに転送してくれないかな?」
俺は記者を笑顔で覗き込み、記者は顔を赤くして
「は、はい!もちろん、確認の為に送らせて頂きます!」と慌てて頭を下げた。



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