実験→作用→その結果
私を呼び付けた清良さんは、小一時間程前に私が分析器が終わるのを待つという名目で休憩していた丸椅子に腰を降ろし、私の食べ残したオヤツをちゃっかり食べながら、私が手持無沙汰解消に持ち込んだ雑誌に目を落としていた。
雑誌は女性向けのもの。
清良さんは探究心の塊みたいな人だ。
これまでマッドサイエンティスト野郎の巣窟だったラボに初めての女子(私)が来て、その生態や持ち物にとても興味があるご様子。
ただ女子と言うだけで興味を持ってもらえるなんて…!!
リケ女と微妙に敬遠されながらもここまで続けた甲斐があった!
「なぁ。ココに書かれている事は事実なのか?」
府に落ちんと言わんばかりに長いしなやかな指が雑誌の上でとんとんと跳ねる。
覗き込んで見てみれば『壁ドン』の特集記事だった。
「こんな威圧的行為に人はトキメキを覚えるか?よもや恋など産まれるものか?……や、ひょっとして吊り橋効果か…」
ドキドキして平常心を失っている状況に及んでは傍にいる人に万感の信頼と安心を覚え、それが異性であるならば恋と錯覚する、というアレですね。
……確かにそう言われればそう言う心理作用もアリかもしれないな……。
「どうなんだ」と詰問されて私は情けなく眉を垂れる。
「そんな事聞かれても私だって体験した事ないし、分からないです。」
「そうなのか。」
どっちつかずの相槌を打った清良さんは拳に顎を乗せて暫し考え込む。
ぁぁ………碌でもない予感。
「よし。実験してみよう。」
そら来たぁー!
疑問に思った事はそれが些細な事でも追及しないと気が済まない性質。
それに付き合わされるのが目下助手である私の役目。
勘弁してほしい……。