ロンド～輪廻～
席につくなり香奈子は

「洋平君はいらっしゃるかしら？呼んでくれない？」

と亜紀に尋ねた。

女の直感で嫌な感じはしたが、亜紀は厨房に行き、洋平を呼んだ。

洋平は突然の事で戸惑っていたが、渋々厨房を出て香奈子の席に向かった。

亜紀も洋平と一緒に香奈子の元へ向かおうとしたが、別の客に呼び止められてしまい、完全にタイミングを逸してしまった亜紀は遠目で二人の姿を見ることしか出来なかった。

何やら洋平は喜んでいるようだった。

《なんの話だったんだろう？まぁ、後で洋平に聞けばいいか…》

その日の営業が終わり、店からの帰り道、亜紀は昼間の事を洋平に尋ねた。

洋平は少し複雑そうな顔で

「あの人実は高校の先輩でさ、今度ホームパーティがあるから来ないか？って誘われたんだ。有名な公認会計士が来るらしくて俺を紹介してもらえるんだって…」

と答えた。

洋平にとっては嬉しい誘いであるはずなのに、どこか浮かない表情をしている姿に亜紀は疑問を持ち、尋ねた。

「どうしたの？嬉しくなさそうだけど？」

すると洋平は立ち止まり、亜紀の方を向いて

「実はそのパーティの日は亜紀の誕生日なんだ…だから断ろうと思ってる…」

それを聞いて亜紀は一瞬固まったが、すぐさま笑顔で、

「行ってきなよ。誕生日に一緒いれないのは悲しいけど、せっかくのチャンスを棒に振る事はないよ！」

洋平の両肩にそっと手をあて、真っ直ぐ目を見ながら言った。

亜紀は洋平のためを思って精一杯強がってみせた。洋平もそんな亜紀の気持ちに気づいていたが、洋平にとっては願ってもいないチャンスだった。

結局洋平は亜紀の厚意に甘えて、パーティに行く事にした。
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表紙・目次

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