その顔を見せないで
課が違うけど
同じ会社なので
接点もたまにある。
「船山さーん」
工藤さんが私の名前を呼びながら、一直線に私の元へやって来る。
会話する心の準備ができてない。
工藤さんの長い足が到着時間を早め
アッという間に隣に来たから
私は身体を固くして座ったまま足で床を蹴り、キャスターの流れよろしく机の端に避難する。
「また俺を避ける!」
「避けてません」
その顔に弱いだけです。
上から威圧され小さく反撃。
「お前は絶対俺の顔見ないよな。そこまで嫌いか?」
工藤さんは呆れた声を出し
避難する私の肩をツンツン突っつく
小動物をいじめる猛獣のよう。
「やめて下さい。用件は何ですか?」
「ん?あ、北栄興業さんから振込きた?過剰入金で入るけど、そのまま入金しといて」
「はい」
「だからもっと近くに寄れ!」
「嫌です」
「そこまで嫌うか」
机の上にある書類を拾って私の頭を軽く叩き、工藤さんは笑う。
「智恵ちゃんはマジメなんだから、工藤さんのセクハラが怖いんですよ」
同じ課の先輩が言うと
「セクハラって?」
帰り際
工藤さんは先輩の髪をそっと撫でニッコリ笑う。
あぁその笑顔
上品な薄めの唇がもろドストライク。
後ろ姿を見送って
そのカッコよさに溜め息が出る。
嫌いじゃないんです
その顔が好きだから
避けてしまうんです私。