その顔を見せないで
呆然とする国枝さんを無視して「そうだろ?」と、私の顔を下から覗きこむ。
やめて下さい。
その顔を見せないで
自分の中で何かが崩れる音がする。
返事もせず
泣きそうな顔をしていると
「おいおい。この際はっきり言えよ。ヤツの顔より俺の顔が好きなんだろ」
工藤さんは壁にドンした自分の両手を離し
今度は私の頬を挟んでグイッと顔を上げた。
「俺の顔を見ろよ」
もう
逃れられない。
ずっと憧れてた
その綺麗な顔が
私に魔法をかけてゆく。
「国枝君に『ごめんなさい』しなさい」
そんな呪文をかけられて
「国枝さんごめんなさい」
素直に階段の上に向かってそう言うと、言葉にできない叫び声を上げて国枝さんは行ってしまった。
「あ……」
私ったら何て事を!
自分の言葉に驚いてると
「はい。よくできました」
工藤さんは満面の笑みを浮かべ
そっと私の頬にキスをした。
「唇は後で」
甘い甘い声
甘い甘い顔
「大切にするから、俺と付き合おう」
こんな人と付き合う 自信はない。
モテモテでマイペース
俺様で鬼畜
性格最悪
でも
その顔には絶対勝てない。
私はグレーの冷たいコンクリートに挟まれながら
「はい」と泣きそうな顔で返事する。
この先
どうなるのでしょう。
【完】