からくりの向こう
ゼンが私の目の前に立っている。
「あ、あのっ…‼」
私は吃ったのではない。
ゼンに突き飛ばされたのだ。
優しく肩を突かれたが、後ろの壁に背をぶつけ、ハッと顔を上げた時には、ゼンの右手が壁を強く叩いた。
からくり扉。
壁が半回転し、そのまま2人とも反対側へ。
こちら側は暗闇だ。
真っ暗闇でなにも見えないが、目と鼻の先に、ゼンが居るのがわかる。
ゼンの息遣いが感じられる。
ドンっ。
左手も壁を叩き、私は逃げ道を塞がれた。
少し闇に慣れると、ゼンの逞しくなった顔が浮かび上がる。
「リン」
ただ名を呼ばれただけ。
それなのに。
「鈴」
私の胸が高鳴った。