守る壁ドン
「ただ単に薄情なんだよ、こいつは」

川田さんは中谷さんを押しのけて、私の真正面にどっかりと座った。

「君もそう思うだろ、サチコちゃん?」
「えっ?」

川田さんは私の顔を見ている。が、しかし。

「えっと…私は…」
「あっ!ビールなくなっちゃった。サチコちゃん、注いでよ」

川田さんは空のコップをこちらに押しやる。
私はまず手垢のついたコップを、次に川田さんの顔を見た。
注ぐのは構わないが、さっきの質問にはもう答えなくていいのだろうか? それに、

「何、ボーっとしてんの?早く注いでよ」
「あ…、すみません」

私は少しひっかかったが、しぶしぶピッチャーに手を伸ばす。

「川田さん、私の名前は…」
「おっとっとっと」
「えっ?」

また話を遮られた。今、大事なことを言おうとしたのに。

「サチコちゃん、ダメじゃん。おっとっとっとって俺が言ってるんだから、まあまあまあまあって言わなきゃ」
「はぁ…」
「ノリ悪いよ~、サチコちゃん」

この数分間でよく分かった。川田さんは人の話を聞かない上に面倒くさい人だ。
でも何より問題なのは、私の名前を間違えていることだ。
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