こういうときは甘えて
「じゃー早く謝るのよ、夏海?」
「何を謝ったら…。」
「何ってなんで秀才夏海ちゃんがこんなこともわかんないのよ。」
「…意地悪。」
「どうとでも言いなさい。それより今日デートでしょ。」
「…ケンカしてもケンカ前の約束は有効?」
「風馬なら有効。早く行きなさい。」
「…うん。」

 待ち合わせ場所は大学最寄りの駅。前回の気まずい空気を作った電車にまたしても乗らなくてはならない。それだけでも夏海にとってはハードルが高い。

 待ち合わせ時間の5分前。当たり前のように風馬はいた。

「夏海…さんっ…。」
「…ごめん、遅れた。」
「来てくれないかと、思ってました。」
「…約束、破ったりしないよ。」
「そ、う…ですね。夏海さんは、そうですね。」

 微妙な距離が切ないのは夏海の方だった。素直に『ありがとう、助かる』って言えばいいだけの話だったのにそれすらできない。風馬がどれだけ自分を好いてくれているか知っている。だがそれは、いつまで続くのだろう。こんなに可愛くない自分を好きでいてくれる保証なんてどこにもないことにこうなってようやく気付く。
 『好かれている自分』に自惚れた自分を自覚した。自覚したところで遅いかもしれないけれど。

「…うわ、今日も満員…。」

 開いたドア。こもる熱と湿気。気まずい距離を無遠慮にゼロにしようとする圧倒的狭さ。謝りたいのに謝れない夏海にとっては最悪のコンディションだ。
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