思い出の中にいるきみへ
身代わりデート
「で、なんで、俺はこんなことされてるわけ?」

「は? 何言ってんの?」

「何って、この体勢だよ」

 今夜は2人で花火大会を見に来たはずだった。

 始まって30分もしないうちに、帰ると言い張ったこいつを連れて、
 小さな外灯が点々としている薄暗い裏通りを歩いている途中。

 何を思ったのか、突如立ち止まった杉浦は俺の肩を掴むと、
 家の壁に押し付けやがった。

 いわゆる壁ドンってやつなんだろうけど、
 どうして男の俺が壁側なんだろう。

 てか、これが今、必要か?

 俺の名前は、尾崎悠聖(おざきゆうせい)。
 俺に壁ドンしているこいつの名前は、杉浦里桜(すぎうらりお)。

 俺達は高校2年生でクラスメート。
 杉浦にとって俺は仲がいい男友達程度。けんか友達といったほうが早いかもしれない。

「あんた、今日は理玖(りく)の代わりなんでしょ?」

「そりゃ、そうだけど……」

 強い瞳で挑むように俺を見上げてくる。

 理玖というのはこいつの彼氏。
 今はもうこの世にはいない。
 中3の時、15歳の誕生日を待たずに病気で亡くなったらしい。

 杉浦は今でもそいつを思い続けている。 

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