思い出の中にいるきみへ
「花火ならさっき見たでしょ。病院の外出許可が出なかったから、こっそりとね。見たのは少しの間だけだったから、あれだけで充分」

 えっ……初デートが、入院中に抜け出した花火大会って……

 ウソだろ。

 もっと、楽しいモノを想像していた。
 見終わったら、どこかのファミレスか、ファーストフード店に寄っていくとか。
 一緒にいるだけで幸せなはずの時間。

「なんて顔をしてんのよ」

 杉浦は動揺している俺に自嘲気味にふっと口の端をあげた。

「つき合い始めたのは理玖が退院した後の中2の時。わたし達はテニス部で、その頃は県大会も控えていたし、休みはほとんどなくて。大会が終わったらデートしようって、色々計画を立てて楽しみにしていたけど、それも叶わなかった。理玖が再入院してしまったから」


 杉浦はその時のことが頭に浮かんでいるんだろう、
 どこか遠い目をして淡々と言葉を紡ぐ。

 ただ瞳は哀しみを湛え深い影を宿して。

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