思い出の中にいるきみへ
「そうじゃない、俺は理玖じゃないから、もうこれ以上は……」

「理玖は口答えなんてしなかった」

 こいつは俺のことなんて見ていない。理玖ってヤツのことだけ。

『理玖になって、どこまでもつき合う』
 バカな約束をしてしまった。

 黙り込んだ俺に再び杉浦の顔が近づいて……唇が重なる。

「理玖」

 里桜は大切な大切な宝物のように名前を呼んだ。
 俺は理玖で、里桜は理玖の彼女。

 交わす度にキスは深くなって、舌が忍び込んできて。

 ちょっと、待て……

 予想もしなかったあまりのことに俺は硬直してしまった。
 けど、里桜は容赦ない。

 口の中を里桜の舌が這い回って、俺の舌は絡めとられていた。
 触れ合う舌は柔らかくて温かくて、頭の芯を痺れさせたけど。

 これって……ちょっと。
 ちょっと、待ってくれ。


 俺は里桜の絡みつく舌から逃げるように、めいっぱい身を引き剥がした。

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