思い出の中にいるきみへ
「おい、里桜。いくらなんでも、これはやり過ぎだから」

 キスを中断されたのが不満なのか仏頂面の里桜がいた。

「なんでよ」

「おまえはどうだかしんないけどな、俺は初めてなんだよ」

 怒鳴るように言うと、里桜がポカンと呆けた顔をした。

「まさか……」

 里桜は信じられない顔をしていたけれど、ホントのことなんだからしょうがない。
 今まで特定の彼女はいなかったし、経験だけはしとこうなんて軽い考えはなくて、
 高校生になったら里桜を好きになってしまったし。

「こんなこと、ウソついてどうするんだよ」

 見栄を張るならまだしも、
 キス未経験なんて女子に告白するのは勇気がいるんだからな。

 唇を触れ合わせるだけのキスならまだ許せるけど、
 舌を入れるっていうのは初心者の俺にはハードすぎる。

 それも身代わりで、俺を好きなわけじゃない。

「わたしはね、理玖としたの。尾崎、あんたとじゃなくて、理玖とキスをしたんだから、ホントのファーストキスは、好きな子とすればいいんじゃない?」

「里桜」 

「名前で呼ばないで。わたしは杉浦。あんたに名前で呼ばれたくない」

 カナシイ現実。里桜のツンとした態度に溜息が出る。
 何故こいつは俺に対して反抗的なんだろう。
 友達には笑顔も見せるのに、俺の前で笑った顏なんてほとんど見せてくれない。


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