思い出の中にいるきみへ
「帰る」

「おい。ちょっと、帰るって。怒ったのか?」

 さっさと踵を返して歩き出そうとした里桜の腕を咄嗟に掴んだ。

「そうじゃない。わたし達はキスしたあとに別れたから初デートは終わり。だから、ごっこもおしまい。つき合わせて悪かったわね。それじゃ、さよなら」

 あっけない幕切れ。

 あんなキスを俺の唇に残したままで……


 振り解こうとした里桜の腕を引き寄せて、今度は俺が壁に押し付けた。

「コレ、何の真似? わたし帰るんだけど?」

 勝気な瞳には俺が映っていた。

「俺のファーストキスをあげるよ」

「……言ったじゃない。初めては好きな子としなさいって」

「だから、好きな子とする」

「……」

「俺が好きなのは里桜、おまえだから。初めては里桜にやる」

 ヤツとのキスだと思われたままでは、帰すことなんか出来ない。

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