夜が明けたら、君と。
「帰りなよ。送ってやろうか」
「嫌よ。帰らない」
「ここでずっと飲まれちゃ、バーテンだって迷惑だろ」
「私はお客よ。開店している間はここにいる権利があるわ」
「まあね」
馬鹿にしたような含み笑いに心底嫌な気分になりつつ、私は飲み続ける。
男も静かにグラスを傾ける。
沈黙が私の迷惑行為を責めているようで、耐え切れなくなって本音をこぼした。
「……一人の部屋に帰りたくないのよ」
「へぇ?」
「彼とは遠距離だったの。だから帰って一人なのはいつものこと」
「じゃあいいじゃないか」
「でも、今日からは彼の面影を探すだけで辛い」
ソファに、ベランダに、テレビの前に、ベッドに。
遠距離恋愛を続けるためには脳内補完が必要不可欠だ。
私はあの部屋で彼の面影を探す癖がついてしまっている。
でも今日からは、それが苦しい。
それでもしてしまうだろうことがわかるから、あの部屋には帰りたくない。
「……じゃあ、違うところに帰ろうか」
「え?」
「バーもそろそろ閉店時間だよ。君みたいな酔っぱらいにいられたら迷惑だ」
容赦無い言葉を投げつけて、彼は私の腕を引っ張ると私の分も含めて支払いを済ませた。
やばい、と本能的に思う。