彼の手の中の私
その日がきっかけだった。
「はい、どうぞ」
今日はすごく寒い。温かいコーヒーを淹れたマグカップを彼に手渡しながら、私も同じものを手にそっと彼の隣に座った。
それはいつもと同じ。
寂しくなった私が夜、彼を自宅へと呼び出す。いつも、いつも、出会った頃から何度も繰り返されてきた事。
私はずっと彼と居た。大学時代に出会ってからずっと、社会に出て色々な経験を越える中ずっと、いつも傍に。それが当たり前になっていった。
「…寂しくなるといつもあなたに頼りたくなるの」
ポツリと独り言のように言葉をこぼして、横目でそっと彼を窺った。ーーすると分かる。彼が嬉しそうに目を細めて私を見ているのが。口元を優しく緩めているのが。
「…今日は寒いね」
そんな彼の表情を見て、そんな口先だけの言い訳をしながら私は彼に寄り添った。そしてそんな私を受け入れるのは、彼にとって当たり前の事。
温かい。
彼は私を拒まない。
彼は私の全てを受け入れてくれる。
だって彼はーー…
「……」
でも、本当は言わなきゃならない言葉がある。
「…ごめんなさい、私…」
“甘えてるの。あなたの想いに”
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