彼の手の中の私
「私…好きな人なんて、出来ないような気がする」
その言葉に彼は、少しの動揺も見せないままで私をジッと見つめ返した。前はもう少し動揺を隠しきれない彼が見られたような気がする。でも最近の彼からは全くもってそれが見られなくなった。本当に私の事が好きなのかと、思うくらいに。
「だって…あなたがいるから」
でも、こんな時。私が彼を必要とする時
、頼る時、甘える時。そんな言葉を口にした時に彼はいつもその雰囲気を、表情を、緩やかに嬉々としたものに変える。それを感じ取って彼の想いを再確認する私がいる。そして心の中で安堵するのだ、私を欲する彼の想いに。彼の、私を好きだという想いに。
…だから、だろうか。
「だから私は、好きな人が出来ない…いや、人を好きになれない、んだと思う」
そう言葉を繋げると、彼は私が言う事の意味が分からなくなったのだろう。首を傾げて怪訝そうに尋ねてくる。どういう事?と。
どういう事…か。
「だって…好きっていうのは、与えたいと思う事でしょう?」
あなたはいつも、私に直接求めてこない。私の想いも、時間も、約束も、繋がりも、何も私に対して求めた事はない。
ただただ、私の傍に居てくれる。私の欲しいものをくれる。私に想いをくれる。
…私は、何もあげられていないのに。
あなたはいつも、無償の愛情を私に注いでくれる。それを好きという意味だとするのならば。